ランチタイム(1)
続きです。
「あっつ・・・・・・」
夏休みは終わった。
しかしまだ夏は去らない。
とにかく暑い。
いや熱い。
そしておまけに眠い。
給食後の午後の授業。
纏わりつくような暑さのなか、鉛筆を握りしめてなんとか意識を繋いでいた。
結局理科の問題集も見つからず、担任の鬼メガネ女にこっぴどく叱られたし・・・・・・。
新学期のスタートは、ぼろぼろで始まった。
ノートに書く文字が、うねり出す。
にょろにょろひょろひょろ、手に力が入らない。
そしてそれが自覚出来ないほどに、意識は沈み始めていた。
瞼が熱い。
お腹もいっぱいだし、暑さでちょっとボーッとして・・・・・・。
そして気づけば・・・・・・。
「きららさん・・・・・・?」
先生の手刀を食らっていた。
今日の授業を全て終えて、帰りの会も掃除もやって・・・・・・そうしてやっと下校時間。
久しぶりの学校は楽しかったけど、ちょっと疲れた。
「病み上がりだし、ちょっと多めに見てほしいよ・・・・・・」
まだ暑い中、部活に励む児童たちの声が聞こえる。
ほんと、部活やんなくてよかった。
「まー実際、食後は眠いよなぁ。今日きららやたら食ってたしな」
「だって・・・・・・お腹減ってたんだもん。あとみこちゃんが分けてくれたし、唐揚げ。美味しかった」
「なんだ嫌味か? あたしジャンケン負けたんだが・・・・・・」
みこちゃんはなんか係活動で、さくらはうさぎ当番。
どらこちゃんと今日のことを話しながら校門を出る。
木の葉が作る影から出ないように、汗をかきながら歩いた。
忘れ物だったり居眠りだったり、まぁそういうこともあったけど給食は無条件で美味しい。
どらこちゃんとの勝負の末、唐揚げを勝ち取れたのもハッピーだ。
「ていうか・・・・・・みこちゃん、唐揚げ食べないんだね。あんな美味しいのに。揚げ物苦手なのかな・・・・・・」
それ関連で思い出してみると、そう言えば一学期でもよくどらこちゃんに餌付けしていたなと思う。
あれでいて案外好き嫌い多いのかも。
私も人参は好きになれない。
野菜の甘さがもうなんか・・・・・・無理。
「ああ・・・・・・あれな。あれはな・・・・・・まぁ色々あんだよ」
「色々って・・・・・・?」
どらこちゃんの言葉に首を傾げる。
好き嫌いに理由があるってあんまり無いと思うし、とくに思い当たらない。
「アンキラサウルス。あたしとみこの・・・・・・そうだな、出会いの話になるわけだ」
「え、好き嫌いとそれが関係あるの?」
「あるの」
ますますよく分からない。
時期的には私は登校拒否中だろうし、その間に何があったのか・・・・・・。
「みこは・・・・・・食事に関しちゃちょっと特別な体験をしてんだよ。だからその所為で肉が未だに苦手なんだ。別に食えないわけじゃないんだけどな」
「あら、もったいない。よりによってお肉なんて・・・・・・」
「本人もまぁ食ったら美味いって思うだろうけど・・・・・・それを上回る抵抗があんだよ。聞くか・・・・・・?」
どらこちゃんが歩くペースを落として私の横に並ぶ。
「怖い話・・・・・・?」
「ではないな、結局アンキラサウルスだし」
実際、気にならなくはない。
私が登校する頃には初めから仲良しだったし、その経緯はよく知らない。
それこそみこちゃんは「アンキラサウルスに襲われてたのを助けて貰った」って言ってたし。
視線でどらこちゃんに話すように促す。
どらこちゃんは視線を空に向けて、そして古い記憶をたぐり寄せた。
「あれはな・・・・・・」
どらこちゃんが語る、まだ暑くなかった時期の話。
私の知らない二人の物語が、今ここで再生された。
続きます。




