きらきら・ウォーゲーム(9)
続きです。
立ち上がったユノが表情の無い顔で私を睨む。
「救う・・・・・・だと? ふざけるな!」
そう叫んで、こちらに駆けてきた。
その一歩一歩が重い振動となって大地を駆け巡る。
けれども私もまたユノに向かって駆け出した。
大剣の炎はまだ消えない。
背負った思いたちは、それが灯した光は消えやしない。
再び温度が増す。
光がます。
それは一筋の軌跡を描いて、ユノの拳と交わった。
衝撃に次いで、辺りが燃え上がる。
「邪魔を! するなぁッ!!」
ユノの力が増し、更に拳を重く刃に押し付ける。
私もその力比べに乗って、押し返した。
「・・・・・・」
大剣に少しヒビが入るのを視界の端に捉える。
けど、引かない。
引くべきじゃない。
剣の持ち手を両手で力強く握る。
燃え盛る刀身で押し返す。
「・・・・・・!!」
すると、ユノの拳にもまたヒビが生まれた。
追い討ちをかけるように更に強く・・・・・・いや・・・・・・。
「お・・・・・・らッ・・・・・・!!」
ユノの拳を押しのけて、その場で身を翻す。
その一回転で、炎は空気を孕みその火力を増す。
そしてその一撃を思い切り叩き込んだ。
一瞬の光の明滅に、熱風が吹き抜ける。
火の粉を散らし、ユノのその体をのけぞらせた。
私の一撃に、ユノは後ろに滑る。
地面に潜り込んでしまいそうなつま先で踏ん張るが、衝撃を押さえきれず背後の廃墟に衝突した。
舞い上がる砂埃がその巨体を一瞬隠す。
だがすぐにそれを貫いて水晶の触手が伸びた。
その尖った先端が輝く。
押し寄せる。
もしかしたら大剣の一薙ぎで相殺出来るかもしれないが、しかし少しこちらの耐久も気になる。
そして、今の私にはそれ以外の選択肢がちゃんとあるのだ。
再びみこちゃんの創造の力を借りる。
初めに光が生まれ、私の左腕を覆う。
そしてそれは徐々に形を成していった。
私の左腕を丸ごと飲み込んだ、巨大な砲身。
その銃口はまるで恐竜の口のような形状をしている。
迷うことは無い。
真っ直ぐにそれを構え、そして発射する。
撃ち出された光弾は高速で空気を焼いた。
吐き出された光の弾は、ユノの伸ばした触手を破壊しながらユノ本体に迫る。
ユノはその弾丸の接近に防御姿勢をとった。
腕を交差させ、そのエネルギーの塊を振り払おうとする。
だけどそれは、決してその程度じゃ解けない。
潰えることのない光が、ユノを更に押し出す。
腕の傷も、より深まる。
建物を破壊しながら、ユノは弾の勢いに押される。
それを見ながら、私は上空へと舞い上がった。
高い空から、まだ威力を打ち消しきれないユノを見下ろす。
それに再び照準を合わせた。
やっとの静止と同時にユノがこちらを見上げる。
だがもう遅い。
「フルチャージ! コロナ・ブラスター!!」
砲身が震える。
臨界点に達したエネルギーが輝く。
その全てが凝縮された弾を、ユノの居る場所に真上から撃ち出した。
その小さな光は一瞬でユノに到達する。
音もなく大地を穿ち、そして湧き出した。
世界の軋む音と一緒に、着弾点から光がドーム状に膨れ上がる。
街のほとんどを飲み込む。
捲れ上がったアスファルトや建物の残骸が、光の中に影となって泳いだ。
「いたっ・・・・・・!?」
しかし油断は許されない。
爆発したエネルギーの内側から射出された水晶の弾丸。
それが私の左腕に直撃した。
危うく左肩が外れそうなくらいの衝撃を受け、コロナブラスターが光と散る。
そして・・・・・・。
「うっそ・・・・・・」
既に全身に目立つ傷を刻まれたユノが、光の中から飛び出してきた。
水晶のミサイル、触手。
屈折する光線に、その本体。
全部乗せだ。
ユノが持てる全てをこの瞬間に注ぎ込む。
ならば、私も応えよう。
私も闇を携えて迫るユノに上から突撃する。
最初に触手と漆黒の蔓同士が衝突し、お互いに破片を散らした。
しかしさくらの生み出す闇は散らない。
無限に、無尽蔵に、空間を蝕む。
水晶も光線もこの街も。
何もかもをまとめて闇が飲み込む。
もう私たちに光は届かない。
けれど、紡がれた光が私にはある。
「宵闇・閃」
静かに呟き、刀身を一閃する。
瞬間、一筋の光が闇を両断した。
光の斬撃が虹色をばら撒く。
その光に、断たれた闇が解けていく。
迸る光。
それは私の作り上げた闇ごと、ユノを切り裂く。
既にダメージの蓄積していたユノはとうとうその下半身を失ってしまった。
だが、まだ食らいつく。
殺意を剥き出して、牙を剥く。
「私が・・・・・・! こんなもの・・・・・・!!」
脚が無いのに跳躍を果たし、私に迫る。
ユノの叫び声に次ぐ、衝撃。
それは、私のこの大剣も打ち砕いてしまった。
「フハハハハッ!! 勝った!! これで終わりだぁッ!!」
まだ散りきらない闇の破片の中、笑いながら両手を広げる。
互角に渡り合う為の武器を失った私を壊そうと、その指を広げる。
「まだだ・・・・・・!!」
しかしその笑い声を私自身の声で遮った。
この言葉はハッタリでもなんでもない。
核となっていた私の片手剣からまるで枝のように光が伸びる。
それは破壊されて飛び散った大剣の破片を貫いた。
その全てを再び繋ぎ合わせる。
光そのものが刀身を形作る。
「だから何だぁッ!!」
「それは食らって確かめろッ!!」
ユノの突進に、自ら飛び込む。
その胸に、光の刀身で渾身の突きを打ち込む。
最後の一撃。
ユノを取り戻す為の、希望の光。
この暖かさは幻想なんかじゃない。
怪物に堕ちた少女に、手を差し伸べるのだ。
刃が砕けた装甲に食い込む。
が、それだけじゃない。
まだ。
まだまだ。
もっとずっと大きな力を注ぎ込む。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁあッ!!」
声を荒げたのと同時に、光が弾ける。
爆発的な力が、溢れ出す。
エネルギーの噴火。
刀身の光は、そのまま巨大なビームになる。
それは丸ごとユノを飲み込んで、遥か彼方へ吹き飛ばした。
光の奔流の中で、ユノの装甲は赤熱して溶けていく。
「まだ、まだだ! 私が、こんな・・・・・・!」
忌々しげな声が響き渡るが、それすらも光は飲み込み、かき消す。
ユノを覆っていた鎧は、より集まった負のエネルギーは、光の中で消える。
最後には小さな光の点、ユノという少女だけが残った。
剣から放出された光線は、そのユノを月に叩きつける。
その瞬間に役目を終えたかのように枯れた。
私の手にはただの片手剣だけが残り、飛行能力も失われる。
「う・・・・・・わ、わ、わ・・・・・・っと」
危うく頭から落ちるところだったが、なんとかガタガタの地面に着地した。
焼けたような色だった空は、色褪せるように冷めていく。
それは正しく、ユノが醒めたことを表していた。
続きます。




