渦巻き絵本(13)
続きです。
今回の戦いは、物語の都合上みこちゃんたちも戦力だ。
しかし、同時に敵でもある。
これも物語の都合上だ。
別に則る必要があるわけではないけれど、その方がすっきりする。
階段の上では既に戦いが始まっている。
竜騎士が虚ろの魔女の周囲を飛び回りながら、斬撃を浴びせているのだ。
しかし、全ての攻撃は容易くいなされているようだった。
「ならば不意打ち......」
「な、何するニャ!?」
ゴローの首根っこを引っ掴んで......。
「投げる!」
ゴローの描く放物線の、その途中に虚ろを展開する。
ゴローはその奥の見えない穴に吸い込まれように入っていった。
魔女の力も上手く使えている。
内心ガッツポーズしながら、一段飛ばしで階段を登る。
二階には館の内側に沿って作られた足場しかないので、身動きが取りづらい。
多分階段の上の方がまだ融通がきくだろう。
虚ろの魔女はみこちゃんたちの攻撃も捌きながらも、しっかり私を視界に収めている。
「グオァァアッ!」
どらこちゃんの喉が赤く輝く、それは体内から湧き上がる炎の輝きだ。
放たれた螺旋を描く猛火は、たちまち周囲の気温を上昇させる。
しかしそれも、虚ろの魔女相手には無力。虚ろに吸い込まれてしまう。
みこちゃんが何かに気づき後ろを振り返るがもう遅い。
背後に開いた虚ろから吹き出す炎に呑まれてしまった。
どらこちゃんの巨体は館の壁を壊して外に投げ出されてしまう。
みこちゃんはその背から落下し階下に落ちていくのが見えた。
「本当に竜騎士を退治するのなんてわけないんだね」
これから攻撃する場所を予告するように切っ先で喉元を指す。
「これでも手こずった方さ。そこらの有象無象よりかは歯ごたえがあったよ」
冷淡に言う魔女は、話しつつも私を警戒しているようだった。
壊れた壁から注ぐ光を反射する剣から視線を外さない。
そう......しっかり私を警戒してくれているのだ。
魔女の背後に穴が現れる。
そこから飛び出すのゴローだ。
上手く......いった!
ゴローに気づいた魔女が、私から一瞬視線を外す。
そのタイミングで、踏み出す。
「私を警戒すればゴローは防げない!その逆も同じ!あんたは攻撃を避けられない!」
私の声に、魔女が視線を戻す。
その表情は冷静そのものだった。
「ま......普通の人間相手ならね」
「なっ......!」
ゴローの前に再び穴が出現する。
それを潜ったゴローは魔女の手元に生まれた穴から排出され、そして捕まってしまった。
「これに対処出来ないようじゃ竜騎士たちの攻撃だって避けられはしないよ。ましてやただの猫。無視して構わないレベルじゃないか」
ゴローが魔女の手中でぷらぷら揺らされる。
正直こうなるとは思っていなかったが、しかしサプライズはまだある。
「ただの猫?何言ってんのさ。そうじゃないのはあんたが一番知ってるでしょ?」
「まさか......!?」
虚ろの魔女が初めて動揺する。
「そうだよ。ただの猫じゃない......魔獣だ!」
ゴローの首から下が膨れ上がる。
手足が伸び、尻尾は縮む。
伸びた手足は丸太のように太く、たくましく、脈動する筋繊維が浮き出ている。割れた腹筋は打撃ならどんな攻撃も通さないだろう。
その筋肉の鎧を覆うのは、新品同様に手入れされた黒いスーツ。
一瞬で筋肉モリモリマッチョマンの変態と化したゴローが蝶ネクタイを引っ張りながら言い放つ。
「パワードゴロー参上ニャ!」
言うと同時にその右拳を、魔女に打ち込む。
ゼロ距離から放たれた強烈な一撃に魔女の反応が追いつかず。
足場をぶち破って階下に叩きつけられた。
「やったぜ!」
「やったニャ!」
ゴローとハイタッチをする。
その手のひらの大きさと硬さに私自身も驚いた。
「ゴロー」
私が呼ぶと、ゴローが私の体を掬う。
お姫様抱っこの状態で私たちも砂埃の舞う階下に飛び降りた。
続きます。