きらきら・ウォーゲーム(1)
続きです。
私を閉じ込める水晶が剥がれ落ちていく。
開いた瞳が映すのは、あの空間じゃない。
確かな重力を感じる。
肉体の重さ、空気の湿度。
間違いなく現実だ。
だけど私の視界に映る世界は、まるで現実じゃないかのように様変わりしている。
自分の記憶よりずっと大きい月。
赤い空に輪を描くその破片。
都市は崩壊し、建物やスバルのロボットの残骸でいっぱいだ。
至るところに見え隠れする水晶の塊。
その数だけ水晶に飲まれた人が居るということだろうか。
「嘘だ・・・・・・そんな、ありえない・・・・・・」
「スバルちゃん・・・・・・声・・・・・・」
崩れたビルの影から、声が運ばれてくる。
そちらを見れば、スバルとミラクルが居た。
「今、どうなってるの・・・・・・?」
少なくとも正常な状況ではないことは確かだ。
「いや・・・・・・それよりきらら・・・・・・なんで・・・・・・?」
スバルは困惑した様子で私を指差す。
よく見ればその姿は細かい傷や汚れだらけでぼろぼろだった。
「スバル・・・・・・大変だったみたいだね。でも大丈夫・・・・・・!」
私が来たから。
この道を、切り開いて見せる。
「いや・・・・・・まぁそれはそうだけど・・・・・・どうして、きらら・・・・・・君、胸・・・・・・」
「あ、これ・・・・・・」
私の胸は、この現実においても満たされている。
服にも傷はなく、少し汚れてるけどばっちりだ。
スバルとミラクルが一緒に居るのを見るに、たぶん状況は大きく変わった。
しかし、この惨状・・・・・・決着がついた訳ではあるまい。
「ほら・・・・・・スバルちゃんの声が大きいから・・・・・・」
ミラクルの元気のない声。
らしくないと思って顔を見ると、すぐに視線を逸らされた。
しかし、そういう問題も後回しにしなくちゃならなそうだ。
二人が身を隠していた建物が跡形もなく消える。
そしてその向こうに、見たことのない存在が姿を現した。
「あれは・・・・・・」
光の翼を広げた、白い鎧の巨人。
生き物らしさは感じないが、その揺らぐことのない強い意思を感じる。
それは意思というよりは・・・・・・使命。
怪物の癖に神々しく、光を振り撒く姿は救世主、あるいは神のような存在に見える。
だけど、そうじゃないと私は知ってる。
閉じ込められた悲しみを知ってる。
この光が誰のものか知ってる。
目の前の、知らない怪物はユノだ。
「目覚めたか・・・・・・きらら。君なら戻って来ると信じていたよ。さぁ、収穫の時だ。君の進化を、真価を、見せて貰おう・・・・・・!」
ユノが嗤う。
今や怪物に成り下がってしまったが、それでもまだ力を渇望し、何かを変えようとしている。
確かにその力で世界を大きく変えられるだろうが・・・・・・。
「・・・・・・」
ミラクルの表情を見て確信する。
ユノが望むものも、ミラクルが望むものもこれでは手に入らない。
このままでは、辿る結末は救世主と陽子ちゃんのような別れだ。
それが繰り返されることは、救世主も望まないだろう。
「いいよ。何度でも奪うといい。何度でも倒すといい。出来るもんならね」
「き、きらら!?」
驚くスバルとミラクルを守るように、堂々と立ち塞がる。
この程度の煽りが効く相手じゃないが、これは私の決意表明でもある。
「・・・・・・」
ユノは値踏みするように、私を眺める。
ビルの隙間に、かすかに潮の匂いがする風が吹いた。
私のスカートがふわりと揺れる。
空に浮かぶユノを見つめ返して、ユノを戦いへと誘った。
続きます。




