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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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be forever (21)

続きです。

 崩壊した都市に現れた、光の巨人。

同じ光の巨人でもウルトラマンとは全然違う。


 白い鎧を身に纏い・・・・・・いや、その鎧に中身は無い。

空の鎧が翼を広げているのだ。


 その姿はまるでとても神聖なもののようにも見える。

しかしその正体は、アンキラサウルス。

ただ人の命を奪うためだけに存在する、化け物だ。


「まいったな・・・・・・」


 崩れたビルの瓦礫がどこかでガラガラ音を立てる。

ユノは、どうなったのだろう。


 罪を重ねてきたとはいえ、ユノは人間だ。

僕が守ろうとした、守るべき存在。


 それが今は人の姿をしていない。

どうにかして戻す手立てがあるのか以前に、人がアンキラサウルスになるだなんて聞いたこともない。


 そして何より、僕には何かをする時間も道具もない。

壊れた都市で、死を待つだけの存在だ。


 禁忌武装・糸。

その名の通り、それは操り糸だ。

何かを新しく生み出すことは出来ない。


 純粋な能力者と違って、禁忌武装はその能力に幅が無いのだ。

新たな解釈を生み出す余地は無い。


「取り戻す、取り戻すんだ。私は・・・・・・ああ、ああ・・・・・・! 憎い、憎い、憎い! どうして・・・・・・。人類・・・・・・!」


 ユノはほとんど錯乱状態で、おそらく自分がどうなっているかも認識していない。

そのユノを支配する負の感情、人類への憎しみはとても一人のものとは思えない。


「奇跡と一緒に・・・・・・負のエネルギーも取り込みすぎたか? どちらにせよ、もうユノと呼べるような存在ではないな・・・・・・」


 ユノはこの瞬間、自らが成そうとしていたことすら否定している。

今の彼女にとって人類は下等生物で、駆除しなければならない存在のようだ。

まさしく、アンキラサウルスそのものといったところか。


 彼女の負の感情を核に、反転した奇跡と淀んだモノたちが形を成した。

確かにそこにユノは居るのだろうが、既にあの騎士の一部でしかない。


「・・・・・・」


 バルスを逃すことは出来て良かった、それだけは良かった。

そう思っておくべきだろうか。


 僕はもう十分やったと、許してやるべきだろうか。


「いや・・・・・・それを選べるのは僕じゃないか・・・・・・」


 ユノがこちらを向く。

その空っぽのヘルメットだけで僕よりずっと大きい。


 許してくれても、許してくれなくても、今この瞬間僕は結末を迎えるしかないわけだ。


 後悔ばかりだ。

しかしどこからやり直しても、同じようにこの瞬間にたどり着いてしまうような気がしてならない。

それが運命であるかのように。


 時の流れには逆らえない。

ただの人間の僕にとって、それは一方向に流れ続けるもので、止めることも巻き戻すことも叶わない。

出来るのはせいぜいその流れを予測するくらいだ。


 僕は少し賢く生まれたから、だから僕自身の限界をよく知っている。

多くの人々は、僕の語ることを夢物語のように感じるかもしれないが、僕にとってはただの現実だ。

そんな現実を掴む知恵を得た代わりに、手の届かないものを夢想することが出来なかった。

それはもしかしたら、ずっと劣っているということなのかもしれない。


 僕が今出来ることは、何一つ無い。

生きる未来を想像することが出来ない。


 僕の助けになるものなんて何もなくて、全ては既に破壊され尽くしてしまった。

僕は僕が最後に夢見たバルスという存在に全てを託すしかない。


 ユノが迫る。

その巨体が影となって僕を覆う。

その表情もクソもない鎧の顔が、僕の最後に見るものだ。


 諦めて目を閉じる。

次の瞬間、僕はその巨体に押し潰されるか、あるいは別の方法でこの世から消え去るだろう。 


 無力感が恐怖を掻き消す。

訪れるであろう痛みだけが嫌で、終わること自体には何も思わなかった。


 閉ざした瞳の闇の中、小さな音を聞く。

それは僕の肉が引き裂かれる音でも、骨が砕ける音でもない。


 小さいけどはっきりとした、鋭い音。

まさか彼女にまだそんな気力があったなんて・・・・・・。


「ミラ・・・・・・!」 


 どこから声を出しているのか分からないユノの声。

それが立ち塞がる紫電の名を呼ぶ。

僕はその声に目を開けた。


「ミラクル・・・・・・」


 紫電から姿を現したミラクルの表情は複雑。

どんな顔をしたらいいのか、どうしたらいいのか分からない。

そう表情で語っていた。


 ミラクルは何も言わない。

そしてその体を雷が僕諸共包んで・・・・・・。


「ここは・・・・・・」


 気がつけば壊れて斜めになったビルの柱の裏に居た。

ユノの存在感はあるが、視界には居ない。

代わりにミラクルが居た。


「逃げて来た。けどここからは出られない。見つかるまで時間はかからないと思う」


 ミラクルは淡々と言う。

それが何の解決にもならないと知っているし、この状況はミラクルにとって残酷すぎる。

選んだのは心を動かさず、枯れた瞳であるものを見つめることなのだろう。


 何も思わず、何も感じず・・・・・・アイドルとしては最悪だろう。

しかし当然、それを責めることは出来ない。


「そうか・・・・・・」


 身を潜めて、柱に寄りかかる。

何かを待つように、ため息をつく。

待つしか出来ないのだ。

何かが起きるとも思えないが、けどこうして生きるしかない。


 世界を救いたかった。

ユノのような人も救いたかった。


 空を見上げる。

ミラクルの顔を見る。

広範囲に渡って瓦解した都市を見る。


 新しい生態系のように、至るところを水晶が蝕み。

大地は亀裂が走り、陥没し・・・・・・あるところはドロドロに溶けて赤熱し、あるところは海水が流れ込んでいる。


 世界を救おうとしてたどり着いたのは、そういう場所だった。

続きます。

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