渦巻き絵本(12)
続きです。
「ようこそもう一人の私。待っていたよ」
声色も変えて、本格的に虚ろの魔女として話しはじめる。
その切り替えの早さは素直にすごいと思った。
「お......おおぅ......!」
切り替えが上手くいかなかった私は、曖昧な相槌を打って誤魔化した。
館の照明が辺りを柔らかく照らし、至る所に散見されるろうそくの火は風に揺れる。
「と、とりあえずなんでおんなじ姿をしてるのかとか尋ねるところニャ......」
ゴローが手すりで囁く。
それに頷き、私も魔女として話し出す。
「ど......どうして私と同じ姿をしているの!?」
「どういうことです......でありますか!?」
みこちゃんも乗っかってきてくれたので、いよいよ気持ちが入り出す。
強制的に指定されていたとは言え、私は主人公と全く同じ気持ちを体験している。私には彼女の気持ちが分かるのだ。
ならばそのままに......演じきる!
虚ろの魔女の表情が明るくなる。
私たちの演技は望み通りのものだったらしい。
楽しげな表情で、けれども役は崩さず虚ろの魔女が答える。
「それはおまえが私だからに他ならない。どの魔女たちも二人で一人。私たちはほんの手違いで生まれた失敗作なのさ」
カツカツ靴底を鳴らして言う虚ろの魔女を見て、どらこちゃんが「グルル」と唸る。
どらこちゃんも勝手が分かってきたみたいだった。
虚ろの魔女は、どらこちゃんを視線で制しながら続ける。
「私は他のどの魔女も到達し得なかった真実を知っている。魔女の真実を......だ」
「魔女の......真実?」
言いながら亜空間から箒を取り出す。
今なら魔女の力も使えるみたいだ。
密かに今後に活かそうと企んでおいた。
「そうだ。魔女の真実。それを知ったが故に、私は殺戮を繰り返し、そしておまえが来るのを待った」
「私を......?」
「渦巻く私たちの記憶に......魔女たちの記憶に終止符を打つのだ。私もおまえも、魔女たちは計画の一部でしかないのさ。計画は概ね成功だった。ただ一つ、前提から上手くいくものではなかったのだ」
「何を言ってるでありますか!?計画?そんなものの為に魔女たちは人々を殺めるのでありますか!?」
みこちゃんが腰の鞘から片手剣を抜刀する。
「......違う違う。私たちの計画ではないさ。私たちは贄に過ぎない。計画の一部でしかなかったと言っただろう?」
みこちゃんが剣を収めることはない。
「計画って何ニャ?」
ゴローが手すりから飛び上がる。
そのまま私の肩の辺りまで飛んできた。
虚ろの魔女は忌々しそうに苦い表情をする。
「世界の再創造さ。その魔法には生贄が必要だった。私たちはその為に作り出されたモノでしかない」
「いけ......にえ」
物語上、それは私にも当てはまる。
生贄でないとしても、魔女たちは苦しみを背負っていた。
とすれば、この主人公は虚ろの魔女を許そうとするだろう。
「生贄さ。......しかし、さっきも言った通り前提から破綻していたのさ。失敗した計画の後残されたのは私たちと行き場のない殺意だけ。おまえには私を殺してほしいのだ」
「えっ......?」
演技抜きの素で驚く。
虚ろの魔女自身が死を望んでいるとしたら、主人公はどうするのだろう。
死の間際の弓の魔女の顔を思い出す。
魔女にとっては死がそのままの意味で解放なのだと悟る。
でも......。
「......死んだら償えないよ!」
それは主人公の覚悟だった。
虚ろの魔女も作者として、期待通りの言葉に瞳が輝く。
「私とて手加減は出来ない。今でもおまえたちを殺したくてうずうずしている。殺そうとしなければ、おまえたちが死ぬぞ?」
「上等であります!」
みこちゃんが階段からどらこちゃんに飛び乗る。
竜騎士として、虚ろの魔女を殺すつもりだろう。
「ゴロー......いや、クロ!私たちも!」
簡単に死なせてやるもんですか!
箒を剣へと変える。
今の私なら魔法だって使える。
「目指すはトゥルーエンドニャ!」
飛び上がる竜騎士を追って、階段を駆け上った。
続きます。




