My name is...(5)
続きです。
押入れから丸い机を引っ張り出す。
家にはいくつかの部屋があるが、一番広い仏壇前に設置するつもりだ。
戦うとなれば当然勝ちを目指す訳で、そうなれば作戦会議が必要だ......たぶん。
「ノートと鉛筆、お菓子とジュース。あとなんだろ?」
作戦会議といっても、何をどうすればいいのかさっぱりだ。
「んー」
二リットルペットボトルを持ったまま固まってしまう。
ペットボトルの中身のりんごジュースに視線を落としてみても、当然何も浮かばない。それどころか思考が脱線し始める。
「ゴローってジュース飲むのかな......?」
確認を取りに、もう一度自分の部屋へ戻る。位置関係からして、結構距離があるので少し面倒だ。
ドアを開けて、隙間に滑り込む。
「ゴローはジュース飲む?......ていうかなんでついてこないの?地縛霊?」
ゴローは机の上であぐらをかいていた。
「ジュースなら飲む口がないニャ。それと、うかうかついて行ってしまったら、おばあちゃんに見つかっちゃうニャ」
「え?見つかっちゃダメなの......?」
「そういうものだと相場が決まっているニャ」
いまいち納得しづらい返答だが、とりあえずそういうことにしておいた。
ゴローの首のあたりを掴んで持ち上げる。ぬいぐるみとして持っていく分には問題ないだろう。
「もう少し丁寧に優しく持って欲しいニャ」
「知ってる?猫って首の後ろのところ持って仔猫運ぶんだよ」
「仮にボクが仔猫だったら、首が絞まっているニャ......」
なんだか持ち方に文句があるみたいだけれど、私はこれが一番いいので持ち方は変えない。
「第一、ゴロー猫じゃないでしょ」
すっかり無抵抗といった感じで、完全に脱力しているが、口は反抗を続ける。
「ボクがしたのは、仮の話ニャ。それに、最初に猫の話をしたのはキミニャ」
「口答えしない」
「......」
「何......?」
「なんか理不尽ニャ」
ゴローからの視線を感じるが、作戦会議をしなきゃなので、中断して仏間へ向かう。
おばあちゃんの足音が近づくと、物陰に隠れてやり過ごした。
障子に張り付いて隠れているときに、ゴローが口を開く。
「別にぬいぐるみって体で運んでるんだから隠れる必要ないニャ」
「それはそれ、これはこれ」
「......何が?」
ゴローからの非難を浴びながらも、なんとか無事に仏間に辿り着くことが出来た。
ノートを一ページ破いて、「極秘会議中」という張り紙を作って、障子に貼っておいた。
「極秘なのに、会議してますって教えちゃうんニャ?」
「会議の内容が極秘で、別に会議してることは極秘じゃないから」
「障子一枚のセキュリティかニャ......」
机の中心にノートを開いて置き、その端にゴローを文鎮感覚で置く。
コップにはジュースを注いで、これで会議室の完成だ。
「ペットボトルを畳の上に置かない方がいいニャ。結露した水で濡れちゃうニャ」
「あ、うん......」
言われて反射的に机に置き直す。
「けつろ......?」
「結露」
正露丸とかの仲間だろうか。
まぁ正直どうでもいいところだ。
ジュースを一口。
息を吸い込んで、キリッとした表情を作る。
「これより、作戦会議を始める!......始めます!」
「......」
「......」
「けつろ?」
「結露」
続きます。