渦巻き絵本(11)
続きです。
「......そして、姿を現したのは魔女と全く同じ姿の魔女でした......」
そう言って館の中から手招きをするのは、例のニット帽の彼女だった。
「いや同じじゃないんかい!」
「ほら......ね?そこは分かりやすさ重視で」
思わず突っ込むと、頭を掻きながら苦笑いされてしまった。
とりあえず......と、館の内側からもう一度手招きをする。仕切り直しの意味も込められているのだろう。
それの後を追って、ゆっくりと館に入って行くのだった。
館の内側は完全な暗闇。
さくらのツルの中を思い出す。
あれと同様に全く何も見えない。
「暗い......」
「何も見えないニャ」
「......びっくりしたぁ」
ゴローの声が思いのほか近くから聞こえたことに驚く。
そう言う不意打ちみたいなのはよくないよ。
「いてっ......何かにぶつかりました」
私の背後からみこちゃんの声も響く。
何かにぶつかったみたいだけれど、今自分がどういう地形の場所に立っているのか自分でも分からな......。
「うわっと......!?お!?おぉ!?」
足が何かに引っかかる。
咄嗟に手を伸ばすが、その伸ばした指がまた何かにぶつかってしまった。
「大丈夫かニャ......?」
「......ゴローは飛んでるからね」
しかし今自分がどういう場所に居るのかはこれで分かった。大雑把だけど。
連続する段差。
触れたときの木の感触。
突いた指を無意識に引っ張りながら呟く。
「......階段だ」
そこで急に突き刺さるような光が弾ける。
照らされるのは階段に四つん這いになる私、階段の脇でぶつけた頭をさする鎧姿のみこちゃん、そして宙をのんびり漂うゴローとどらこちゃんだった。
階段を上がった先では、虚ろの魔女が腕を組んで私たちを見下ろしていた。
「演出だよ、演出。キミたちが暗闇の中あんまりウロウロするとも思ってなかったからさ......。ちょっと、一部負傷者が出てしまったみたいだけど......」
「だって手招きしたじゃないですか!?」
みこちゃんが私の分も代弁して言う。
「あぁ......それはそうなんだけど......」
どもる虚ろの魔女の元にどらこちゃんが飛んで行く。
何やってんだろと思いつつも、その動向を見守る。
そして、どらこちゃんはその爪を虚ろの魔女へ振り下ろした。
館に衝突音が響く。
発生した衝撃に館の照明が揺れる。
「はへ......?」
唖然として見つめていると、どらこちゃんが話し出した。
「先手必勝って思ったけど......上手くいかなかったわ」
どらこちゃんの爪は確かに何かに命中したが、それは虚ろの魔女の体ではない。
あと少しで届くというところで、見えない何かに阻まれている。
虚ろの魔女は平然として、頭を掻く。
「悪いね。展開上これから結構話すから、今は物語に保護されてるんだよね」
「ちょっとそれなら私たちも保護しといてよ!」
「いやぁ......想定外だったもので......」
抗議するが、相変わらず苦笑いで頭を掻くだけだった。
「なぁんだ」とどらこちゃんも館の中央に降りてくる。
今更だけど、ドラゴンが飛び回れる広さの館ってどうなのよ。
みこちゃんも階段を上り私の横に並んだ。ゴローは手すりの上で落ち着いているみたいだ。
「さて......じゃあちょっと長話になるよ」
言われて階段に座る。
みこちゃんも少し躊躇うが、私より一個下の段に腰掛けた。
「うん。話を聞く準備もまぁ出来たみたいだね。一応会話だから出来ればそれっぽく話を合わせてくれると助かるよ」
「そんなんで大丈夫か?」
「今までは大丈夫だった......たぶん」
どらこちゃんの真っ当な質問に目をそらし気味に答える。
どうも苦い思い出があるみたいだ。
「まぁ......キミたちは信じてるよ」
そして魔女の口上が始まるのだった。
続きます。