渦巻き絵本(9)
続きです。
目を覚ますと、そこは野営をしていた焚き火のそばでした。
「こんちくしょう。せっかく昼寝してたのに......」
いやぁ......思いのほかガチ寝だったものだから......。
普通あそこでそう何時間も眠ると思わないじゃない。
「体感だけど、二時間は寝てたニャ......。また夜寝られなくなるパターンニャ」
さて......ウォームアップも済んだところだし、そろそろ物語に入ってもいいかな?
「これって結局どういう物語なの?」
えぇ......今聞く?
まぁいい......。これから話してあげよう。
それはね......。
今度は湖の側で夜を過ごしています。
そこにいるのは、魔女とクロ......二人だけです。
暖かく辺りを照らす焚き火が、時折パチパチと音を立てました。
その揺れる炎を魔女は憂鬱な気分で見つめています。
「大丈夫だって!キミがそんな悪い魔女じゃないってボクがよく知ってるニャ!」
クロが励まそうとそう言ってくれましたが、やっぱり魔女の気分は晴れません。
「分からないよ......。クロに出会う前はそうだったのかもしれない。私は悪い魔女なのかもしれない......」
「でも!......でも、もしそうだったとしても今のキミは違うニャ!」
クロが力強く言います。
魔女はちょっとだけクロに身を寄せました。
どこかで水の跳ねる音がしました。
その音は、静か過ぎる二人の間を通り抜けていきました。
魔女は揺れる炎から視線を外しません。
クロがそばにいて、そして揺れる炎を見つめていると魔女は落ち着くのでした。
「今は違ったとして......だから許されるわけじゃないんだ......」
強い風が吹いて、炎が一瞬消えそうになります。
クロは少し頼りなくなった炎に枝を放りながら、優しく続けます。
「確かに誰も許してくれないかもしれないニャ。ボクだってそうニャ。キミが封印するまではたくさんの村を襲っていたニャ。ボクだってとても許してもらえるようなものじゃないニャ」
魔女は少し懐かしく思いました。
クロは実は昔、悪い魔物だったのです。本来の力を封印されて、魔女と生活しているうちに今のクロになったのでした。
「でもキミは、ボクに生きていていいって言ってくれたニャ。だからボクだってキミのことを嫌いになったりしないニャ。誰も許してくれなくたって、償い続けることは出来るニャ。そのときはもちろんボクも一緒ニャ。......だから、そんな顔しないで......」
クロが不安そうに魔女の顔を覗きます。
「......ごめんごめん。私がこんなんじゃいけないよね。きっとこの旅も償いなんだ......」
魔女はクロを抱えて、星空を見上げます。
魔女は魔女同士の戦いを終わらせるのです。昔殺してしまったかもしれない人たちのために、そして赤頭巾ちゃんや弓の魔女のためにも。
「まぁキミが虚ろの魔女かどうかはまだ分からないけどね」
少し元気を取り戻した魔女を見て、クロも嬉しそうでした。
そこに再び強い風が吹きます。
あまりの風の強さに火の粉が舞い上がりました。
その火の粉が照らすのは巨大なドラゴンでした。
その背中には鈍色の甲冑を身に纏った見覚えのある姿があります。
「「竜騎士さん!?」」
思わず魔女とクロの言葉が重なります。
「久しぶりであります」
竜から降りた騎士が敬礼をします。
「お二人に話があるのであります。今日、お城の方に来たでしょう......?あそこは私の町でもあります」
魔女はハッとします。
相手は竜騎士です。もしかしたら魔女を殺しに来たのかもしれません。
ところが、竜騎士の続ける言葉は全く違うものでした。
「我が国の王様が、あなたが弓の魔女を撃退するのを見ていました。その腕を見込んである魔女の退治をお願いしたいのです。その魔女は......」
「え......?」
竜騎士の言葉に魔女は耳を疑います。
「ですから、虚ろの魔女を退治してほしいのです」
続きます。