渦巻き絵本(8)
続きです。
「定期的に来るんだね......これ」
「そうみたいニャ」
控え室と書かれた扉を、全身に矢が刺さったさくらと一緒に潜る。
扉の先では既にどらこちゃんとみこちゃんがくつろいでいた。
背景は先程の控え室と全く同じだ。
「いやぁ、名演技だったね......さくら。まさしく二重人格って感じで、完全に役になりきれてたよ」
疲労の募る首を回しながら、ニヤケ面でさくらに言う。
「うっさいわね。あんまりからかわないでくれる?」
さくらは心底迷惑そうに体に刺さった矢を抜いていた。
「それ......痛くないの?」
「何......?試してみる?」
「やめとく」
さくらが冗談まじりに矢じりを向けるが、それを手で払いのけて苦笑いした。
冗談が混じっているだけであって、瞳の奥に「別に刺してもいいけどね」という意思が見えた。
「まぁ......痛くはないわよ」
「ほえー」
川のそばで腰を下ろすどらこちゃんたちの方話しながら向かう。
河原にもかかわらずどらこちゃんは寝転がっていた。
まぁもっとも現実世界ではないので汚れることもないのだろう。
「二人ともお疲れ様です」
「お疲れー」
寝転ぶどらこちゃんの横では、みこちゃんが石を積み上げていた。
「何ていうか......暇の潰し方独特だね......」
「わわっ......これは気にしないでください!」
そう言って慌てて崩してしまった。
なんだかちょっともったいないと思った。
「あれは何かニャ?」
何かに気づいたゴローが、みこちゃんに尋ねる。
しかしそれに答えるのはみこちゃんではなく、ゴローの視線の先にあるスピーカーだった。背部に着いた羽で宙を漂っている。
『放送室だと誰かにたどり着かれそうだし、また誰かさんが水に落ちかねないからね。今度は空飛ぶスピーカーにしたんだ。かっこいいでしょ?』
「ダサい」
何だか馬鹿にされた気がしたから即答した。
私も河原に腰を下ろし、水の流れに手を浸す。
ぬるくもなく、冷たすぎず、丁度良い冷たさだった。
「その水飲めるぞ」
寝っ転がったままどらこちゃんが言う。
別に飲むつもりはないし、なんなら不慮の事故で既に飲んでいた。
「私も寝よっかなぁ......」
『別に構わないよ。天気も気温も一定だから、なかなか気持ちいい昼寝になると思うよ』
スピーカーがノイズまじりに言った。
その言葉に、実際に寝ているどらこちゃんの方を見ると、リラックスしきった表情でサムズアップをした。
その様子を見ながら、体を横にする。
「私も寝よ」
「えっ......?じゃあ私も......」
さくらはだるそうに、みこちゃんはどらこちゃんの懐に潜り込むようにして、それぞれ寝転がる。
「ゴロー......かもーん」
「はいはいニャ......」
飛んできたゴローをキャッチして、私も目を閉じる。
四人と一匹が身を寄せ合う河原には、気持ちのいい風が吹いていた。
続きます。