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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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渦巻き絵本(7)

続きです。

「へっ......楽しもうじゃないか!キミの力を見せてくれ!さぁ!」

弓の魔女が、狂気的な笑い声を上げながら、弓の弦を弾きます。

赤黒い禍々しい魔力が弓に集まっていきます。

「へっ......喰らえ!」

引きしぼられた弓から、真っ黒に濁った矢が飛び出しました。

その矢は真っ直ぐに魔女を目指します。

ところが、その矢が魔女に届くことはありませんでした。

矢は突如現れた“穴”に入っていってしまったのです。

「なっ!?お前まさか......虚ろの魔女か!?」

虚ろ。

それは誰も認識することすら叶わない亜空間を意味します。

魔女はそれを自由に操ることが出来たのでした。

しかし同時に、魔女は虚ろの魔女と呼ばれたことに違和感を抱きました。

そのように呼ばれたことがないし、魔法を使うところを誰かに見せた覚えもないのです。

弓の魔女の背後に再び虚ろがその口を開きます。

飛び出してくるのは、彼女自身が放った矢でした。

「っ......!」

弓の魔女は咄嗟に躱して、なんとか命中を免れました。

「驚いた。まさかお前が虚ろの魔女だったとはな......」

「さっきから何を言っているの?」

魔女は本当に何のことだか分からないので聞き返しました。

「とぼけたって無駄だ!虚ろの魔女を知らない者なんて居ない!私たち魔女はもちろん、辺境の子どもたちだって知ってる!世界で最も人を殺した最も恐ろしい魔女。それがお前だ!」

当然魔女はそんなことを知りません。

ましてや自分がそんな恐ろしい魔女だなんて、そんなことがあるわけがありませんでした。

「そんなの知らないよ!私じゃない!」

「そうニャ!人違いニャ!コイツはとっても優しいんだ!コイツなワケないニャ!」

しかし弓の魔女は、魔女がその虚ろの魔女であると信じて疑いません。

弓の魔女はそうだと確信しているみたいでした。

弓の魔女は一人考え込んで、ぶつぶつと何やら言っています。

「......虚ろの魔女は消えたのか......?とすればお前は......」

弓の魔女がハッとします。

「お前!どうやったんだ!どうやった!」

「え......?」

弓の魔女は突然魔女の肩を掴んで叫びました。

魔女は何が何だか分からないので、困惑する一方です。

「言う気がないなら、力ずくで吐かせてやる!」

弓の魔女が飛び退いて、矢をつがえます。

力を込めて、上空目掛けて。

発射された矢が、町に雨のように降り注ぎます。

「町人諸共串刺しだ!」

弓の魔女は手をいっぱいに広げて高笑いします。

しかし、放たれた矢は悉く虚ろに呑まれてしまうのでした。

「何!?一個だけじゃない!?虚ろの入り口はいくつでも作れるっていうのか!?」

驚く弓の魔女でしたが、その体はとっくに虚ろに取り囲まれてしまっています。

弓の魔女の周囲に広がる無数の穴。

その中からは既に矢じりが頭を覗かせています。

もう避けることは出来ない。

魔女も弓の魔女も、そう思いました。

魔女はまた悲しい気持ちになりました。

降り注ぐ矢をその身で受け止めた弓の魔女が、自分の血でできた血だまりに倒れます。

赤い飛沫がバシャンっと飛び散りました。

魔女はそこへ歩み寄ります。

弓の魔女の消え入るような声が聞こえました。

「......やっと......やっと終われる......」

その目には涙が溜まっていました。

「魔女の苦しみって何なの?」

その顔を見下ろして、魔女は問いかけました。

「......さっきも言ったろ?魔女は人を殺さずにはいられない。でも人を殺したくはない。魔女の正体は二重人格なのさ......。魔法の才能と共に、もう一つの......ただ殺戮を好む人格を押し付けられる。どれだけ優しくあろうとしても、もう一人の私がそれを許さない。お前だってきっとそうだ。覚えていないだけで、きっと殺していた......」

魔女は弓の魔女が死の間際に放った言葉に大きな衝撃を受けました。

自分が沢山の人を殺してしまったかもしれないと告げられたのです。

魔女はふらふらとその場にへたり込みました。

「......お前が虚ろの魔女の人格を消したとしたら、確かにお前は何も知らないのだろう。だけれど、事実は事実。魔女の苦しみからは逃れられない......」

弓の魔女はとうとうその瞳を閉じました。

「あ、ちょっと待ってください!」

気がつけば魔女は町の人が呼び止めるのも聞かずに、走り出していました。

町の人たちの視線が絡み付きます。

しかしその視線に敵意はありません。腑に落ちないと言ったような視線でした。

それでも魔女は足を止めません。

自分自身が恐ろしい魔女である可能性を否定できないのですから。

続きます。

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