渦巻き絵本(3)
続きです。
先程通ってきたドアには「控え室」と書かれた張り紙がある。
室とは言っているが、決して部屋ではなく、どこまでも続く淡い水色の空とクリーム色の地面が描かれている。
その空間に腰を下ろすのは、私とごろーとみこちゃん、どらこちゃん。
要は今居る役者全員だ。
「で......何なんだ、これ?」
どらこちゃんがあぐらをかいて座る。
その顔は状況を少し楽しんでいる様子だった。
「既に敵の攻撃を受けているニャ......。これについては、そう言う能力としか言いようがないニャ」
「さっきはさくらも出てきたし......」
もしかしたらまた出てくるかも分からない。
「でも......これって戦いになってるんですか?」
みこちゃんはどらこちゃんとは対照的に、困った表情を浮かべている。
まぁこっちの方が普通の反応だろう。
「最後の最後で正々堂々戦うんだってさ」
「えっ......!?じゃあこれ......別になくていいんじゃないですか!?」
「まぁ......なくていいと言えば、そういうことになるニャ。どのみちそれまで姿は現さないつもりらしいから、付き合う他ないニャ......」
「まっ......そゆこと」
ゴローに同意して、辺りをうろつく。
白い雲がゆっくりと空を流れていた。
その雲の速度に歩調を合わせ、のんびり歩く。
自分の体や意思が自分の思い通りにならないっていうのは新鮮で面白い感覚ではあるが、案外疲れるのだ。
遠くに見える山に目を凝らしていると、突然視界が白に変わる。
「あれ......?」
「ん?どしたぁ?」
「どうしましたか?」
私があげた声に、二人が反応する。
座ったまま不思議そうにこちらを覗いていた。
「いや......塗り忘れっていうか......。ここ色がない......」
後ろに下がって、距離をとって見てみると縦長の長方形に全くの白紙の範囲があった。
そして、その縦横の比率には見覚えがあるのだ。
「ドア......?」
ゴローたちもこちらにやって来る。
「ほんとニャ......。何だろう?」
「変ですね」
「開くんじゃね?」
どらこちゃんが冗談半分で笑う。
「まさか......」
手を伸ばし......そして指先が触れる。
その長方形は容易く開いて見せるのだった。
「あ......開いた」
呆気にとられつつも中を覗き見る。
背中にどらこちゃんたちがのしかかってくる体重を感じた。
「ちょ......重い......」
扉の隙間から見えるのは、ニット帽を被ったメガネの女の子だった。年は私たちより上に見える。
帽子からはくせっ毛がはみ出している。
「誰ですか?」
「よく見えないニャ......」
「ちょっと!とりあえず私が見るから!三人は下がってて!」
中の人に気づかれまいと、小声でぐいぐい体を寄せる三人を制する。
しかし逆に私の声が決め手になったのか、女の子が振り向いてしまう。
「あ......」
バチクソ目が合った。
気づいた三人はいそいそと何も知らない体で離れてしまう。タイミング的に流石に無理があるが。
「あっ......ここ放送室だから閉めといて」
「あっ......はい、すみません......」
その声はすっかり聞き慣れた頭に響くあの声だった。
私も見なかったことにしようと、その扉をゆっくり閉めた。
「......じゃなくて!今!今いけたやん!」
先程までドアだった位置をドカドカ叩くがビクともしない。それどころか色がつき始める。
「のわっ!?」
色がついた場所はそのまま奥行きのある空間となり、振った拳の勢いでバランスを崩す。
その先に見えるのは、川だ。
「落ちたな」
「落ちますね」
バシャーンと、水の柱が上がった。
続きます。