表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
4/547

My name is...(4)

続きです。


「落ち着いたかニャ?」

「......うん」

まだたくさん喋れそうな感じではなかった。喉は震えてるし、洟も啜ってばかりだ。

「改名戦争のルールを説明するニャ。キミにはボクを経由して、特別なエネルギーが送られる。それをもとに超能力が使えるんだニャ。他の子たちもみんな同じ条件。超能力によるダメージは、宝石に肩代わりされて、宝石が破壊されれば決着ニャ。分かったかニャ?」

「よく分かんない......」

「まぁ、キミにはあまり関係ないことニャね」

「宝石が壊れたら超能力は使えないの?」

ちょっとした疑問が口をついて出る。

「そりゃそうニャ。超能力の源はこの石だし、ボクの本体もこれだからぬいぐるみも元に戻るニャ」

自分の首元を指して言う。

「それ、どうやってくっついてるの?」

「聞きたいかニャ?」

ぬいぐるみが視線を外す。

何か後ろめたいことがあるのだろうか。

「......聞きたい」

まだ涙に濡れた声で促す。

ぬいぐるみはしばらく悩むそぶりを見せたが、渋々といった感じで話し出す。

「その......ニャ。寄生管っていう、返しのついた管があるんニャけど、それを伸ばして、こう......ブスリと」

「え......気持ち悪い」

「妥当な感想ニャ......」

困った様子で後頭部を掻く。たぶん届いてない。

「寄生虫なの......?」

図鑑で見たことのあるものには似ても似つかないけれど、恐らく仲間なのだろう。

「虫ってわけじゃニャ......ともかく!改名戦争のルールはこう言うものニャ!」

あまり好ましい話ではなかったのか、話を無理矢理巻き戻す。

「わかったかニャ?」

「あなたが寄生虫ってことは分かった」

「だーかーらぁ......」

頭を抱えて足をジタバタさせている。

それを見て、ちょっと仕返しが出来たような気分になった。

「ごめんって。それで私はどうすればいいの?」

ぬいぐるみが咳払いをして居住まいを正す。

「さっきも言ったけど、キミは負けるだけでいいニャ。改名権を得られるのは最後の一人だけ。特別何かを気にする必要はないニャ」

「誰かは名前を変える為に戦ってるってことなんだよね」

すっかりやりきった感を出しているぬいぐるみに質問する。

「......ん?それはそうだけど、どうかしたかニャ?」

「じゃあ......私も戦う」

ぬいぐるみが一瞬固まる。

「......?どうしてニャ!?」

「名前を......変えさせたくない。私は自分の名前を大切に思ってるけど、そうじゃない人がいることももちろん知ってる。けど、そういう人たちの名前にも、お母さんかお父さんの気持ちが詰まってる訳で......だから捨てさせたくない」

私の言い分を聞いて、少し真面目な声でぬいぐるみが言う。

「人の名前に対する思いには、誰かが介入するべきじゃないと思うニャ」

「それ、あなたが言う......」

「うっ......。でもだニャ。ボクのことは棚に上げてしまうけど、戦うと決めた人は心の底から名前を変えたいと願っているんニャ。その土俵に上がる動機としてはあまり良くないと思うニャ」

「でも......」

ぬいぐるみの言っていることはたぶん正しいのだろうけど、なんだか納得がいかないというか......なんだろう。

「キミが名前を大切にしたいという思いと同じで、名前を変えたくて戦っている人たちのその思いも、台無しにするべきじゃないはずニャ」

「うー......」

頭の中に言い表したいことが渦巻いているが、うまく言葉にして吐くことが出来ない。

「とにかく、その......名前を変えても......変われない、気がする、の」

うまく纏まらず、言葉が引っかかる。

「......つまりどういうことニャ?」

「それは......」

いつのまにか涙も引っ込んで、こんがらかった思考で頭がいっぱいになっていた。

ゆったりと立ち上がって、閉めかかった窓をもう一度開く。窓枠の向こうには町と青空が広がる。

そこで息を吸って、私について飛んできたぬいぐるみに言う。

「それは、よく分かんない。けど、もう一回だけ名前に向き合ってほしいの。名前に......あなたが言ったみたいにちゃんと“キラキラ”してほしいっていうか......ほんとはキラキラしてるんだぞって言いたい。......ダメかな?」

私の取り留めのない話を黙って聞いていたぬいぐるみが、窓の縁に腰掛ける。そしてゆっくりとこちらを向く。

「なんとなくわかったニャ。キミ自身もまだよく分かってないところもあるみたいだけど......。わかったよ。キミは折れそうにないしね」

「参加していいの?」

「もとよりそれは、キミが決めることだニャ。そしてキミの気持ちは決まってるんだろ」

何も分からないけど、足が一歩踏み出せたような、そんな気持ちになる。

「うん」

「じゃあ最後に一つお願いがあるニャ」

ジャンプして、体の向きもこちらに向けた。

「何?」

「ボクも、その......名前が欲しいニャ」

「......え?」

確か、マスコットと名乗っていなかっただろうか。あれは名前ではないのか。

「少しばかり、名前に憧れが生まれたニャ」

「名前って......マスコットじゃ......」

ぬいぐるみが少し慌てた様子を見せる。表情がないから体の動きで表現するしかないらしく、窓から落ちそうな程体を激しく動かす。

「あ、あれは役職名ニャ......。ボクについてる名前じゃないニャ」

「あ、そうなの」

マスコットっていう職業なのか。

「それで......良ければニャんだけれど、名前をつけてくれないかニャ?」

「え、やだ」

「なんでニャ!?」

ぬいぐるみに名前をつけるというのは、なんだか怖い。夜な夜なひとりでに動き出したりしそう......って、もう動いてるか。

「んー、じゃあ......ゴロー?」

「ゴロー......?それってどういう意味ニャ?」

それは......。

「分からぬ」

「ニャ!?」

「ゴローって感じがしたから......ゴロー」

見た目からパッと出てきた名前がこれだった。こういう名前だとあんまり怖い感じもしないし。

「酷い理由ニャ......」

「ごめん。流石にヤか......」

別の名前を考える為に頭を巡らせる。

「いや、いいニャ。なんでかはわからないけど、気に入ったニャ」

「え?あ......そう?」

既にいくつか代案が浮かんでいたので、少し残念だ。

「本当にそれでいい......?」

「改名権を放棄するニャ」

少し生意気な感じで言った。

笑っている......ような気がした。


続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] キラキラネームを付けられた子供達がそれぞれの課題に向き合って『改名』という勝利へと向かっていく……という斬新で面白いアイデア! このような作品を書けるほど柔軟な作家さんはそう多くないのでは…
2021/09/03 01:15 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ