スペクターズ(38)
続きです。
みこが工場に戻って、そして僕も戻ろうと思うのだが、何故だかバルスがこちらを見つめていて、それが気になってしばらく待っていた。
待ってはみるが、一向に何かを話し出す様子は無い。
この感じは・・・・・・おそらく僕が聞いてくるのを待っているのだろう。
「・・・・・・どうした? 対救世主戦については、お前が負けを認めたろ? 約束は約束だ。それはお前が破壊の快楽の次に大切にしてる価値観だろ?」
僕の言葉に、バルスは力の抜けた表情をする。
「違うよ、姉ちゃん。私個人のこだわりについての話じゃない。姉ちゃんの妹としての話だよ」
「僕の妹として・・・・・・?」
バルスの妙な言い回しに首を傾げる。
僕自身、少し思うところもあって、内心ドキリとする。
バルスは少し言いづらそうに、そして少し恥ずかしそうに口を開いた。
視線は斜め下に逸らされて、それを辿っても先には何も無い。
「・・・・・・戦っちゃダメで、そしてみこが機械を作れるようになった。私よりずっと複雑なことが出来る。・・・・・・もう、要らないのかな・・・・・・」
そう言うバルスは、珍しく自信なさげでしおらしい。
しかしそういう一面が無いわけじゃないのを、僕は知ってる。
「全く・・・・・・何でそう極端かなぁ。そこまで短絡的じゃないはずなんだけどなぁ」
「短絡的って・・・・・・」
「ああ、いや・・・・・・馬鹿にしたわけじゃないよ」
少しムッとした様子のバルスを宥める。
何にしたって、この戦いでバルスはそういうものをきっと賭けていたのだろう。
「バルス、実際君にしかあの・・・・・・謎の物質は作れないだろ?」
名前がついていないので格好つかない。
今まで散々色々なものに名前を付けてきたのだから、これにも付けておくべきだったと後悔する。
「それに、もちろんそれだけじゃない。替えが効くとか効かないとかそういう話じゃないのさ。ていうかそもそも代替不可なわけだし・・・・・・」
姉らしい言葉は浮かばない。
というか、そもそも姉らしくあったタイミングが果たしてあったか。
だから、姉っぽい情緒的な納得のさせ方は諦める。
丁度、ダメ押しに何か欲しかったところだ。
多少無理な注文になるかもしれないが、そこは自慢の妹を信じようじゃないか。
「分かった。じゃあバルスには、バルスにしか僕の妹にしか作れないものを用意して貰おう」
「・・・・・・それは?」
バルスは面白くなさそうな顔で僕に説明を求める。
どういう状況にあっても、創造に関しての興味は無いに等しいらしい。
僕の悪い癖だと思う。
直すつもりはないけど。
その癖を誤魔化しもせずに、少し勿体ぶった表現をする。
「おまもりだよ、おまもり。不本意・・・・・・でもないが、今回は命を張らなければだからね。バルスのお姉ちゃん大好きーなラブが必要なわけだよ」
「・・・・・・姉ちゃん?」
バルスが正気を疑う目をしている。
だが正気を疑われるのにはすっかり慣れているのでノーダメージだ。
正気なやつにゃ、僕と同じ発明は出来んよ。
けれども引かれたままだと、説得力もクソもないので、少し真面目な表情を作る。
「何にしたって、お前は僕の最愛の妹なんだから。作れるだけが価値じゃない。戦うだけが価値じゃない。お前自身、この話を妹としての話って言ったじゃないか。僕の妹の席に、バルス以外が座ることはあり得ないよ」
だから必要不可欠。
バルス以外にバルスは務まらない。
だから、らしくないことも口にする。
「バルス、生まれてきてくれてありがとう」
たぶんこんなことを言うのは初めてだ。
それなら自分の要、不要で多少引っかかるのも無理無いのかもしれない。
解説以外の言葉を重ねるのは苦手だ。
だから、その他諸々はバルスから貰う予定のおまもりに詰めるためにとっておくことにした。
続きます。