スペクターズ(34)
続きです。
バルスちゃんが剣を引っ込めて、代わりに手を差し出す。
その手を取って、多少よろめきながらも立ち上がった。
「まったく・・・・・・何かと思えば、まさかの一撃だよ・・・・・・」
「す・・・・・・すみません・・・・・・。ち、因みに・・・・・・これってやっぱり私が勝たないとバルスちゃんは諦めてくれないですよね・・・・・・」
「そういう約束だ」
「・・・・・・ですよね」
用意してきた作戦は、バルスちゃんの一撃で容易く否定された。
そして残るものは・・・・・・。
敗北。
それが目前まで迫ってしまっている。
私は私の約束を果たせない。
それはやっぱり、酷く格好悪かった。
あれだけ強気に出ていて、そしてこんな有様になってしまったのも格好悪い。
「はぁ・・・・・・」
醜態を晒した。
結果から遡って、さっきの出来事が黒歴史に塗り替わる。
なんとも恥ずかしくて、けれどそれを認めることも出来ずに肩を落とした。
「そんな風にしなくたって・・・・・・まだチャンスはあるんだから」
バルスちゃんはまだまだ戦い足りないといった様子で、骨刀を素振りする。
軽々と扱っているが、二日目の修行の途中で持たせてもらったから分かるが、両手で持ち上げているのがやっとなくらい重い。
それを片手で扱うバルスちゃんはやっぱりどうかしていると思う。
「そうは言ってもですねぇ・・・・・・」
圧倒的に足りない。
奇策を講じても、その溝が埋まることはなかった。
「だからみこは能力を使いすぎなんだって」
バルスちゃんの口から、またその言葉が飛び出す。
能力の使いすぎ。
じゃあ能力を使わないで勝てとでもいうのか。
なんて、そんなわけあるはずがない。
だったらその言葉の本当の意味は、どこにあるのだろう。
「能力の、使いすぎ・・・・・・」
それと思考によるタイムラグ。
バルスが私に寄越してくれたヒントはこの二つのみだ。
それの意味はなんなのか、直接聞いてみればいいのかもしれない。
だけれど、そうすることはきっと“負け”で、それは私が永久にバルスちゃんに追いつけないことを意味する。
私はそれをそうとそのまま受け入れるつもりはないのだ。
「さて、合図不要っていうのはまだ続いてるかい?」
「あ、少し待ってください」
バルスちゃんが待ちきれないといった様子で、次の話に移る。
申し訳ないけど、それを遮って私は答えを探した。
思考の削減、能力の使いすぎ・・・・・・。
何度もその言葉を反芻する。
戦術の思考、行動選択の思考・・・・・・そして、能力使用の際の思考。
「能力の・・・・・・思考・・・・・・?」
熟考の延長で、小さな声が漏れる。
何も思考というのは一種類だけではないのだ。
私の言葉に、バルスちゃんの眉がピクリと反応した・・・・・・気がした。
削るべき思考。
それは、スバルの言ったような行動の選択や見通しの思考ではない?
能力の思考。
つまり能力に割いている思考。
それを減らす・・・・・・削減。
つまり・・・・・・。
「能力を減らす」
能力の使用を控える。
バルスちゃんの言っていた言葉にそのまま落ち着く。
問題なのは、重要なのは、能力の“何”を減らすかだ。
私が能力を使う際、一体何に思考を割いている?
それは・・・・・・。
「使いすぎって・・・・・・そういうことだったんですか・・・・・・」
予想より遥かに簡単だった答えに、思わずため息を吐く。
「どうやら分かったみたいだね・・・・・・なんとか」
思考を減らすと、能力を減らすは同じ意味だったのだ。
バルスちゃんはほとんど答えを言っていた。
そしてそれがバルスちゃんの導き出した答えなら、きっと勝機はある。
だってあのバルスちゃんだもの。
さんざん苦戦してる私だから、その純粋な強さはよく分かる。
「合図は・・・・・・無しでいいね? 焦ったいのは、省こうぜ」
バルスちゃんが、獲物を見る目で笑う。
残虐で獰猛で攻撃的な笑みを見せる。
収穫のタイミングが来た、とそう思われているのだ。
ならこっちだって、そのつもりで。
「はい、構いませんよ。どこからでも、いつからでも」
これで負けたら、おそらく醜態を晒すだけじゃ済まない。
破壊の権化と化したバルスちゃんは、破壊活動を自制出来ないだろう。
決着は私の勝利か、あるいは破壊されるかの二択しかない。
ただ、私もこの数日間ただ負け続けてたわけじゃないのだ。
バルスちゃんを倒そうと、負ける度に立ち上がって来た。
その執念で、バルスちゃんの破壊衝動に追いついてみせる。
第二ラウンドの、始まりだ。
続きます。




