スペクターズ(32)
続きです。
三日目。
相変わらず私たちは廃工場に詰め込まれていた。
ただだいぶその様子は様変わりしている。
まず、スバルの言っていた「ロボットを作る為のロボット」だが、それらが完成し、今では廃工場どころか少し未来の工場の姿をしている。
本当にロボットが機械を作っているのだから驚きだ。
私の体重の何倍もありそうなロボットや、逆に踏み潰してしまいそうなほど小さなロボットたちが私たちと一緒に作業を進めている。
作業効率的にはむしろ私たちがおまけだ。
蒸し暑くって仕方なかった工場内は、いつの間にか設置されていた冷房で快適。
入るときに毎回登り降りする階段も、まるきり新しいものに変わっていた。
冷房の導入の都合で、穴だらけだったトタン屋根も塞がっている。
相変わらず壁や床はこの近未来的な機械が駆け回る空間には似つかわしくない、いかにも町工場という感じだが、それでも労働環境はこの短期間で信じられない程に良くなった。
「なんか・・・・・・ここまで来ると私達が居る意味ってあるのかしらね・・・・・・」
いつの間にかあった椅子に座って、いつの間にかあったテーブルで素人でも出来る大雑把な仕事をこなす。
相変わらずゴローは器用で、どらこは不器用。
みこは特訓。
けれどもそんなの関係ないくらいに機械が優秀だった。
時折視線が合う・・・・・・気がするロボットのカメラが「所詮おまえらは人間」と嗤っているように見える。
こっちの手際が悪いと容赦なく手元の仕事を取り上げていくものだから、その所為もあってそう見えるのだろう。
ロボットに仕事を取られるって、こういうことなのか。
「そうなぁ。やっぱ戦いたいよな、あたしらも・・・・・・」
また部品の組み合わせを間違えながら、どらこがそうこぼす。
そう、結局そこなのだ。
助けなきゃいけない人が居て、けれども自分は何もするべきじゃないという状況がこんなにももどかしいとは思いもしなかった。
また、そういう個人的な感情だけでなく、明らかな不安要素もあった。
きっとそれは誰しもが感じていること、たぶん作戦を考えた張本人でさえ。
「やっぱり、スバルだけじゃ不安よね・・・・・・」
みんなの考えも確認するように、自らの不安を吐き出す。
スバルは超能力を持たない。
今こうして現在進行形で生まれていく武装たちがあるわけだが、どうしてもそれだけじゃ決め手に欠けるような気がしてしまうのだ。
「スバルの理屈なら、ボクが戦うことは問題無いニャ」
私の言葉に、黙々と作業を進めていたゴローが答える。
「いや、でも・・・・・・ゴローだけじゃどうにもならんだろ・・・・・・」
どらこはもはや作業の手を止めてゴローの言葉に突っ込む。
自分が前線に出たいという意思は明け透けだが、しかしそれは紛れもない事実のはずだ。
空が飛べるだけのぬいぐるみには、戦えない。
「でも、最初はそもそもボクを使うはずだった計画ニャ。それはスバルがボクなら勝てるという算段があってのものニャ」
「残念だけど、それはゴローが救世主には倒せないっていうのが前提で、今はそうじゃないっていうのが分かっているんだから、そうなるとまた違ってくるわよ」
そのくらいのことはゴローも分かっているはずなのだけど・・・・・・。
いや・・・・・・違う。
私たちもゴローと同じだ。
だから分かる。
もはや私たちはそういった理屈の段階に居るんじゃない。
なんとかして私もゴローも言い訳を、抜け道を探そうとしているけど、やはり見ているだけの立場に居たくないのだ。
今はスバルを信じることが最良なのかもしれない。
けれどもそういった理性的なことは排除して、本当は今すぐにでもきららを助けに行きたいのだ。
私に返す言葉を探しているゴローに、首を横に振る。
「やめよう。文句を言うにしても、やることはやってからよ」
「それって、文句は言うつもりってことかニャ?」
「さぁね。私って案外馬鹿かも」
やれと言われたことはやり通す。
後ろめたいこと、この場合は隙と言ってもいい。
それがあると、同じ土俵に上がることすら出来ない。
大きな大切な戦いの前の、個人の願いを賭けた小さな戦い。
往生際が悪くても大目に見て欲しい。
間違いなら間違いでいい。
そうだとしても今は間違えていたいのだ。
続きます。




