スペクターズ(27)
続きです。
「結局・・・・・・何がダメだったんでしょうか・・・・・・?」
修行を終えて、そして今は私もどらこちゃん達の作業に参加していた。
「何がって・・・・・・午前の練習のことか?」
既に集中力を切らして、かなり作業が滞っているどらこちゃんがこちらを見る。
その手の中には作りかけのパーツがとりあえずというような形で収まっていた。
「はい・・・・・・」
私も私で、作業はあまり捗っていない。
結局今日も力は目覚めないし、バルスちゃんにも勝てないままだ。
能力を使いすぎ。
考えすぎ。
そういったバルスちゃんの言葉はしっかり頭の中に残っているけど、じゃあどうしたらいいのか分からずじまいだ。
開き直って何も考えずに戦ったとして、バルスちゃんには勝てるはずもない。
その場合おそらく今より戦績は悪くなるはずだ。
やはりバルスちゃんは私の限界を分かってないのだろうか?
よく使われる言い回しでは「出来る人には出来ない人のことが分からない」というやつだ。
たぶんこの言葉は本当で、それが当たり前なことである程理解が遠のいてしまう。
そしてバルスちゃんにとって戦いは日常の一部で、だから同じ場所にまで登って来られない私が理解出来ていないのかもしれない。
「まぁ、あたしは見てねぇからなんとも言えないけど・・・・・・当たって砕けろーって感じでいいんじゃないか?」
「当たって砕けろ・・・・・・ですかぁ」
でもバルスちゃんの言っていることが私には分からない以上、確かに色々ダメ元で試してみるしかないのかもしれない。
下手な鉄砲を乱射するわけだ。
バルスちゃんが私の限界を理解出来ていないとしても、バルスちゃんが越えなければならない壁であるという事実に変わりはない。
「バルスは思考で生じるラグについて言及していた。思考と行動のタイムラグを減らせ・・・・・・つまりは思考時間自体を減らせってわけだ」
私たちの会話を聞きつけてやって来たスバルが口を挟む。
考えるか考えないか、その両極端ではないということらしい。
確かにそれは最もなんだが・・・・・・。
「それってそんなパーっと出来るようになることなんですかねぇ・・・・・・」
どうしようもなく湧いてしまう行き詰まり感に、ため息が溢れる。
「まぁ出来ないだろうね」
スバルの言葉は簡潔で、そしてそれが現実だった。
「だけど、それはバルスも承知のはずだ。まぁその上で無茶を求めてる可能性も否定出来ないが・・・・・・」
「なるほどです・・・・・・」
なんとも絶妙な表情をするスバルにこちらも微妙な表情が伝染してしまう。
承知の上での無茶。
確かにバルスちゃんならやりかねない。
というかむしろかなりしっくり来てしまう。
「まぁただ、訓練無しに思考時間を減らす方法は無いこともない。単純に考えなければならないことを減らせばいいんだ」
「んだそれ? どういうことだ?」
スバルの言葉にどらこちゃんが首を傾げる。
私も同じように、首を傾げこそしないがその意味を掴みかねていた。
「戦いにおいて、詳しかないが・・・・・・攻撃のタイミング、防御か回避か、まぁ色々選択肢があるだろ? それをはなから一つに絞るんだ。すると状況は案外単純になる。それで勝てるかは疑問だが・・・・・・」
「ダメじゃねーか・・・・・・」
結局打つ手なしかそれに準ずる結論に落ち着き、そのことにどらこちゃんが肩を落とす。
スバルの言ってることはだいぶ極端で、攻撃なら攻撃一辺倒でその他の行動は一切排除するという肉を切らせて骨を断つみたい(違う気もする)なものだ。
実践するとなると、なかなかに微妙。
だけど・・・・・・。
「当たって砕けろ・・・・・・ですね」
今は色々試していくしかないのだ。
ならばこれも一つのやり方として、忘れるわけにはいかない。
時間は限られている。
だからそれこそ無駄な思考は減らさないといけない。
今は迷っていられる余裕は無いのだ。
続きます。