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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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スペクターズ(23)

続きです。

 昇る気泡が弾ける。

その音で、私の視界は開けた。


 切り替わった場面は、またあの家のものだった。


「いいかげんうんざりしてくるね・・・・・・」


 ここにいい思い出など無いのですよ。


 今度は建物を外から眺めているわけじゃない。

建物の内側、どこか分からないけどその一室だった。


 救世主の能力なのか、それとも元々こういう部屋があったのか、それは定かではないが、体育館を思わせる広い部屋に沢山の人の頭が並んでいた。


 その一番後ろには、つまらなそうにしている陽子ちゃんと、それを複雑な表情で眺めているミラクルが居た。


「ミラクルが居るってことは・・・・・・これは救世主のものじゃない?」


 ミラクルは救世主誕生の事情を知っているわけで、だから救世主の記憶に敵以外として映っているはすがない。


「・・・・・・?」


 私の背後で動きがある。

その瞬間、この部屋に集まった人々が歓声を上げた。

その声は幾重にも重なり合って、その言葉一つ一つを聞き取れない。

だけれど、一つだけ分かる単語があった。


 救世主。

妙な輝きを秘めたいくつもの瞳が、私を・・・・・・いや、私の後ろにあるものを見つめる。


 どよめく。

何かに縋るように手を伸ばす。

陽子ちゃんとミラクルだけは、それから目を逸らすように俯いていた。


 人々の視線に導かれて振り向くと、そこには他のところより一段高くなったステージのようなものがあった。

体育館で言う壇上だ。

とことん体育館だ。


 そのステージの両サイドのカーテンの揺れから、今それが開かれたばかりだと分かる。


 その開かれたカーテンの向こう側、その壇上には三人の人の姿があった。


 上下ともに白色の奇妙な服を着た三十代くらいの男女。

そしてその中央に座らされている、鉄の首輪をかけた救世主・・・・・・いや、ユノ。


 ユノはその二人に挟まれて、用意された椅子に頬杖をついて座っていた。

そのつまらなそうな表情から、救世主じゃなくユノだとすぐに分かる。

これほど救世主は表情が豊かではないのだ。

いや、ユノの時点でだいぶ表情は乏しいけど。


 そのユノは、嫌悪感を隠しもせずに群がる人々を見下ろす。

鎖で繋がれた首輪も、忌々しそうに指で揺らしていた。


「こんなもので何が出来る・・・・・・」


 不思議と、そう呟くユノの声は人々のどよめきに紛れず私の耳に届いた。


「でもあなたはその首輪を外さないでいてくれてるわ。あなたは優しい子。私たちの天使なのよ」


「母さん、違う。私たちのではない・・・・・・人類の、だ。人類の救世主なんだよ!」


 ユノの両脇の二人が言葉を交わす。

ユノはその言葉を聞くまいと、視線を虚空に向けていた。


 私も、その二人が交わす言葉に言い知れぬ気持ち悪さを感じる。

何が見えているのか分からないが、その妙にギラギラした瞳も不気味に感じた。


 何かに酷く酔っている。

眩しすぎる光に毒されて、それしか見えなくなっているという感じだった。


「あれは・・・・・・もしかしてユノの・・・・・・」


 あの二人に関しては、明らかに他の人々と違う。

立っている場所もユノの隣だし、その名を呼んでいた。

そして男性の方は女性の方を母さんと呼んだ。


 だから、もしかしたらユノの両親なんじゃないかと、そう思ったのだ。


 その二人は両手を天に伸ばし、感涙する。

その二つの口が発する言語は、耳に馴染みのあるもののはずなのに、まるで知らない言葉を聞いているようだった。

ぐちゃぐちゃで、倒錯してて、それでいて頭に流れ込んでくるような不思議な響きがあった。


 その言葉を受けて、人々はまたその二人と同じように涙を流して打ち震える。

その人たちの服装は、壇上の二人のような奇妙なものではなかったけど、でも同じような人だとすぐに分かる。

光に毒され、飢え、それを渇望する瞳をぎらつかせていた。


 中には膝から崩れ落ちる人も居て、中にはお祈りをするみたいに手を組む人すら居る。

その異様な熱量、異様な光景は私にとってはなんだか怖かった。


 宗教。

これがスバルが言っていたやつかと納得する。


 ただテレビドラマとかで見る新興宗教とはまるで違う点が一つあった。

テレビの中では、こうして人々を騙してほくそ笑んでいる悪者が必ず居る。

しかし、この場においてはユノとミラクルと陽子ちゃんを除く全ての人がユノという存在に酔っている。

誰もが心の底からユノを信仰しているのだ。


 誰かがお金を稼ぐためにやっているならまだマシ・・・・・・とは言わないが、紛れもなくここは本物だった。


「こんなもの・・・・・・!」


 ユノがざわめきに紛れて、首輪に手を伸ばす。

それを引きちぎろうとする。


 きっとユノにとっては鉄の首輪を破壊することなど容易いことなのだろう。

のはずなのに、隣に立つ女性の顔を見上げた瞬間、首輪にかけた指を離してしまった。


「こんなもの・・・・・・」


 そう言うユノの虚な瞳は、その声と一緒に静寂の水に溶けていった。


 私の瞬きと一緒に世界が切り替わる。

私は再び底の見えない海中にその身を浮かべていた。

続きます。

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