スペクターズ(16)
続きです。
みこには途中で作業を切り上げてもらって、廃工場の外へ一緒に出る。
錆でザリザリした階段を下りて、工場の前までやって来た。
「うん・・・・・・中よりは涼しいね」
工場の前には、用途は不明だが無駄に広い空間がある。
と言ってもコンビニの駐車場よりは広いくらいのスペースだが。
そこの場所もフェンスや謎のコンクリートの壁など遮蔽物は多いが、風は通るので中よかマシだった。
これも時間が経つとまた変わってくるだろう。
午前の日差しは幸い雲に遮られていて今は直接届かない。
だが雲の切れ間から時折り顔を覗かせる太陽は「居るからな」と僕らを威圧するようだった。
「それで・・・・・・どうするんですか? 練習って・・・・・・」
「そうだね」
みこの言葉に頷く。
そしてどうするかを頷いてから考え始めた。
秘密基地では危機的状況に突き落とすことでその能力を発言させていたが、そういう舞台の演出も今は難しいだろう。
というか無断でそんなことして「ドッキリ大成功!」なんてやったら今度こそさくらに殺されかねない。
なんなら死ぬための道具を自分で作りなさいとか言われるかも分からない。
もしそうするとしたら・・・・・・。
「おっと・・・・・・済まないね」
僕の「そうだね」の続きを待つみこの視線に、脱線した思考が引き戻される。
頷いた手前、実はまだその方法は考えてないんだなんて出来ない。
手っ取り早いのはもう戦闘訓練というか、実戦による経験の蓄積なのだがそれだと相手が用意できない。
ゴキブリは普段飛び方を忘れていてあわや死亡という身の危険を感じてそれを思い出すという話を聞いたことがあるが、そのくらい深く仕舞われている能力を引き出さねばならないのだ。
だから戦闘訓練となると、生半可な相手じゃ務まらない。
完全に手ぶらで生身の僕じゃ話にならないし、仮に禁忌武装を使ってもその役が務まるか怪しい。
どらこやさくらは仲間という意識が強すぎてダメだろう。
ノワールは弱い。
そこまで挙げてから、他の人物として少年が思いつくわけだが、彼を呼ぶわけにはいかないだろう。
それに絶対に協力してくれないと分かりきっている。
まぁそもそも実戦訓練で能力が本当に引き出せるのかすら怪しいところもある。
だからきっとこの手段は違うのだ。
と言ったところで、何かが思いつくわけでもない。
「あの・・・・・・考えてないですよね、絶対・・・・・・」
結局長い間口を開くことをしなかったので、図星を突かれてしまった。
そもそも隠そうという気持ちもそんなに無かったような気もする。
今となってはそれが負け惜しみかどうかすら分からない。
「まぁ・・・・・・正直、そうなるわけだが・・・・・・」
大人しく負けを認める。
別に勝負じゃないが。
「何でそれで連れ出したんですか・・・・・・」
「まぁ僕としても焦ってはいるということの表れだと思ってくれ」
「は、はぁ・・・・・・」
こういう場面に直面すると、案外高度が先んじるタイプなのだと思い知る。
たぶんあまり良くないだろう。
その無計画さというか、独特のテンポの所為でみこも多少困っているようだった。
「さて、どうするかな」
いよいよみこ本人にまで頼りだす。
本来こんなはずじゃなかったというか、こうもっとスマートに行きたかったのだが・・・・・・。
しかしそこに一つの問題を解決する足音がやって来る。
同時にもう一つの別な問題を携えて。
というかそいつ自体が問題だ。
「お前・・・・・・なんでここに・・・・・・!?」
突然の来訪者に「うげ」となる。
驚く僕を見て、みこも振り向いた。
僕らの視線の先に現れたのは、一人の少女。
僕にとっては毎日顔を突き合わせている人物でもある。
それは戦闘狂こと、僕の妹だった。
続きます。