スペクターズ(11)
続きです。
明るい照明がわたしの影を食べる。
知らない部屋で一人きり、ただ膝を抱えていた。
部屋の中に置かれているものは少なくて、どこか冷たい印象を伴う無機質な明かりから隠れる場所も無い。
食べ物も渡されたけどとても食べる気にはなれなかった。
部屋の中は外の暑さとは無縁だけれど、少し静かすぎる。
だから心の中の騒がしい声から意識が離れなかった。
何がなんだか分からない。
誰が敵で、誰が味方か・・・・・・わたしは誰を信じたらいいのか。
わたしを助けた救世主のお姉ちゃん、その救世主からわたしを庇ったお姉ちゃん、そして、わたしの本当の・・・・・・だけど血のつながりは無いお姉ちゃん。
ただ少なくとも本当のお姉ちゃん、ユノだけは絶対に悪者だった。
わたしを助けてくれないお姉ちゃん。
お姉ちゃんをしてくれないお姉ちゃん。
ずっとミラクルちゃんがお姉ちゃんだったらよかったのにと思っていたくらいだ。
何でミラクルちゃんがあんなのと一緒に居るのか、わたしにはその理由は見つけられなかった。
「・・・・・・」
抱いた膝を、更に胸に引き寄せる。
そうして出来た影に顔をうずめる。
今のわたしにはこの部屋の照明は明るすぎた。
かと言って、立ち上がって電気を消す元気も無い。
だからこうして部屋の角に膝を抱えて収まっているのだ。
今日はもうずっとこうしている。
閉じきったカーテンの隙間から差す光は、いつの間にか照明の明るさに負けていた。
今ではその存在感は全く感じられない。
温度も無い。
だからきっともう夜なのだと思う。
事実とは異なるとしても、わたしにとっては夜で正しかった。
けれどもそんなことはもう重要じゃなくて、今いちばんわたしにとって重要なことは救世主のお姉ちゃんのことだった。
お姉ちゃんが何をしたくて、そして何をしたのか、確かめなくちゃならない。
わたしの一番のお姉ちゃんだから。
思い出・・・・・・と、そう呼んでしまっていいのかは分からない。
けれども救世主のお姉ちゃんと過ごした短い記憶の粒が泡みたいに弾けた。
「お姉ちゃん・・・・・・」
今日突然現れた人たちはお姉ちゃんのことを悪者だって言うけど、やっぱりそんな風に思えない。
わたしをここまで届けた人も、お姉ちゃんがいかに悪い人かを話し続けていた。
たぶんわたしを納得させようと思っていたのだと思う。
頭に張り付いて離れないのは、お姉ちゃんに食べられちゃったもう一人の知らないお姉ちゃんの姿。
最初は悪い人だと思ってたけど、たぶん悪者じゃなかったんだと思う。
もう、居ないけど。
「・・・・・・みんな」
みんな。
怖いけど、でも優しくて。
絶対に変だけど、わたしの家族だった人たち。
その人たちももう居ない。
誰も、わたしのそばには残っていない。
「みんな、みんな・・・・・・どこに行っちゃうの・・・・・・?」
その答えは知っている。
だから正しくはどうしてみんな居なくなってしまうのかだった。
まだわたしのそばに残っていてくれるかもしれないのは、救世主のお姉ちゃんだけ。
だから、やっぱりたくさん確かめなきゃいけない。
そして、お姉ちゃんは悪者じゃないって証明してあげないといけない。
じゃないときっとそばに居てくれないから。
「会いたいな・・・・・・」
一人で居るのはもう嫌だ。
みんなわたしを捨てるか居なくなってしまう。
そればっかりだ。
信じてたのに。
信じてたのに・・・・・・結局誰も・・・・・・。
よく分かんない感覚に、心が波打つ。
それに合わせて口元が震える。
「・・・・・・会いたいな・・・・・・」
誰に会いたいのか、それは救世主のお姉ちゃんのはずなのに・・・・・・何故だかよく分からなかった。
続きます。