スペクターズ(9)
続きです。
「待って。その前に・・・・・・本当にそれしか方法が無いの?」
「いや、このやり方すら最早有効な手段とは言いがたいね」
さくらの言葉に、首を振りながら答える。
ゴローが殺せないのでなければ、このやり方の最も重要な部分が失われてしまうことになる。
つまりとてもじゃないが、賢いやり方とは言えない。
「じゃあやっぱり変えた方がいいじゃないの。あんた私たちに準備を手伝ってほしいみたいなこと言ってたし、それってたぶん何日かかかるでしょ? 私としてはそこも引っかかるの。そんな悠長なこと・・・・・・やってられない」
さくらが言及したのは、僕がさくらが納得しないだろうと予想していたところについてだった。
実際最初に僕が作戦を話したときに、さくらのスイッチを入れてしまったのもこの部分のはずだ。
ところが今のさくらはいくらか落ち着いていた。
話の転がり方が少し変わり、それに伴って態度も変わったのだろう。
だが・・・・・・。
「確かにこれ以外やり方が無いとは思わないし、言わないよ。けど少なくとも今はそれを見つけることが出来ない。だから・・・・・・変えるわけにもいかないよ。準備に数日かけることも含めてね」
というか、この準備に関しては例え違う作戦を立てたとしても必要になるものだ。
救世主と僕らの間には大きな能力の差がある。
その差を埋めるものがどうしても必要なのだ。
「それに、その事については救世主は何かの目的のためにきららを殺さないはずだし、何かが起きるまたは何かを起こすまでこの状況は変わらない」
「それはあんたの推測でしょうが! 本当にそうかなんて分からない」
確かにさくらの言う通りで、それは僕の推測に過ぎない。
もしかしたら理由も無く、ただ殺し忘れていただけなのかもしれない。
だとしたら、今突然きららが殺されても不思議なことはないのだ。
「・・・・・・けど、どの道絶対に必要なんだ。僕らと救世主の差は歴然だった。君は意識がなかったから分からないかもしれないが・・・・・・」
「あんたね・・・・・・!」
さくらが憎々しげにこちらを睨む。
「済まない。少し意地悪を言ったな。けど事実、僕らと救世主の差は大きなものだった。最早そこに関しての選択肢は無いようなものなんだ」
何日も代替案を探すようならそれこそ悠長なわけで、とにかく今日すぐに行ってすぐに片をつけるなんてことは出来ないのだ。
「確かに私は知らないわよ・・・・・・。けど、今度は私が居るじゃない! 差は縮まるはずでしょ!」
「いや・・・・・・」
その否定の言葉を口にしたのは、僕じゃない。
「キミ一人で埋まる差じゃないニャ。これはさくらが弱いって言ってるわけじゃない。けど、やっぱりその差は埋まらないニャ」
「ゴロー・・・・・・」
基本的に僕が信頼されていないのか、それともゴローが信頼されているのか・・・・・・さくらはその言葉を聞いて悔しそうに視線を下に向けた。
「でも・・・・・・だってそんな・・・・・・」
さくらの口からはそれ以上の言葉が出てこない。
「まぁでも、それでも勝手に自分が行くって言って、それでダメだったら諦めろなんつーのはズルい気がするがな」
どらこはどらこでまた別の切り口から不満を言う。
彼女としては自分が行きたいのだろう。
誰だって誰かの死を背負って生きるのと勝手にやり切って死ぬのなら後者の方が気が楽だ。
「別に僕とて死ぬつもりは無いさ。だからこそ準備も必要なんだ」
「そうかもしれねーけどさ・・・・・・」
どらこは歯切れ悪く頭を掻く。
だが勝ち目が全く無い戦いでもないはずなのだ。
能力者からしたらロボットなんて鉄の塊に何が出来るという感覚かもしれないが、能力と違い機械は融通が効くのだ。
ロボットなら対策が出来る。
救世主専用の殲滅部隊が作り上げられるのだ。
ただ時間はそれなりに要すが。
「・・・・・・分かった。準備は手伝う。私じゃきっと力不足だってことも知ってた。でも、作戦についてはまだ考えさせてほしい」
「・・・・・・」
人間は機械程分かりやすくない。
だから、そう言ったさくらの真意はよく分からなかった。
まさか僕が死ぬのを見たくないからなんてことはないはずだが、だとすればやはりきららだろうか。
ここにいる誰もが、重苦しい面持ちをしている。
時間はまだ一時間も経っていないのに、焦りは募るばかり。
きららはまだ生きている。
生かされている。
ひとまずは・・・・・・。
「分かった。作戦についてはまだ考えよう。そして・・・・・・」
時間が惜しい。
「準備を進めよう」
皆、煮え切らないというか、そういった複雑な表情を浮かべている。
それでも、いつもと変わらずやらねばならないことは無遠慮に降り積もる。
あとどれくらい、足掻けるのだろうか。
続きます。