スペクターズ(7)
続きです。
少し待つと、やがて重なる足音がやって来る。
そしてみこが再び部屋の扉を開いた。
「ゴローちゃんも一緒でした!」
その言葉通り、みこが開けたドアの隙間からさくらとゴローが顔を覗かせていた。
「うわ。やっぱり居るのね」
「済まないが居るよ。ただ思ったより大丈夫そうで安心したよ」
きららのことで夜も眠れないなんて可能性も考えていたが、さくらの顔色はそれ程悪くなさそうだ。
ゴローが一緒に居るのが何か関係あるのかもしれない。
どうもその線が正しそうだということを、ゴローに続いて監視・撮影用の目玉のおっさんが入ってきたことで証明してくれた。
ゴローの映像を枕元にぐっすりだったのかもしれない。
それと、大丈夫そうというのはもう一つ。
僕にとって都合の良い大丈夫そうだった。
きららが取り込まれたことをあまり引きずっている様子が無い。
その視線は既にいかに助けるかに向いているようだった。
だが、作戦内容を伝えたらそれもどうなるか分からない。
まぁ結局は一悶着あるかもしれない。
「随分元気そうじゃない。その様子なら何かしらの考えがあるんでしょうね?」
さくらがずかずか部屋に入って、早々に本題に切り込む。
ゴローを携えて、空いていた窓際のスペースにどっしり腰を落とした。
「まぁね。無いことはない」
こっちとしても勿体ぶることは無い。
ゴローの方の様子も窺うが、顔は変わらないのにいつもの間抜け面とは少し違う雰囲気・・・・・・な気がした。
「まず一番重要なこと。それはこの作戦の中心がゴローだということだ」
「願ってもないことニャ」
話を切り出すと、すぐにその張本人から返事が返って来る。
やる気十分のようだ。
「なんでゴローなのよ・・・・・・?」
それに対してさくらは少し不服そうにする。
「まぁ待て。別に君たちが重要じゃないわけじゃない。ただ決め手となるのがゴローというだけだ」
「どういうことなんだ?」
どらこが視線でその続きを促す。
さくらも黙って続きを待っているようだった。
頷いて、続ける。
「まず最初に、最重要とも言えるきららの救出だが・・・・・・その役目はゴローにやってもらう。もちろん裸でってことはない。きちんとその際は武装してもらうよ」
「それで、どうしてそれがゴローなのよ」
どうもさくら的にはそこが引っかかるようだ。
まぁきららが取り込まれたあの瞬間、自分がその場に居なかったから思うところがあるのかもしれない。
「それはきららが生きているからさ」
簡潔に、その理由を説明する。
「どういうこと・・・・・・ですか?」
と、みこのその言葉で説明が足りな過ぎることに気がついた。
「まぁ僕らにとってはありがたいことなんだが、きららが生きているのは実はとても不思議なことなんだ。救世主がそうしておく必要が無い。しかし現に今きららは生きている。あの状態で救世主に殺せない・・・・・・というのは考えづらいだろう? かと言って無意味に生かしておくとも思えない」
「要はなんなのよ・・・・・・。あんたいっつも前置きが長いのよ・・・・・・」
「そいつぁ失敬」
さくらには悪いがそういう性格なもんでね。
「つまりだね、きららを生かしておくことには何か意図があるはずなんだよ。そしてアンキラサウルスの目的はただ殺すことのみ。それは救世主自身自覚しているようだった。つまり君たちを殺すのに利用しようとしてる・・・・・・というのが可能性としてあるわけだ。あるいはきららを餌に誘き寄せようとしているのかもしれない。だとしたら君らが前に姿を現した時点できららは用済みになってしまうだろ? だから殺せないゴローを向かわせるんだ」
さくらやどらこたちに説明したかどうか、そこら辺の記憶はあやふやだが、キ石は一切の直接攻撃を受け付けない。
つまりどうあってもダメージの肩代わり以外で壊れないのだ。
救世主がきららを使いたいとすると、その存在を利用するには当然殺してしまっては意味が無い。
そしてきららが殺せなければゴローもまた殺せない。
今の救世主の相手としてはなかなかいやらしい采配のはずだ。
「まぁ・・・・・・何となくは分かったわよ・・・・・・」
さくらも大まかな流れは大体察することが出来たようで、また少し気難しい顔をしながら僕の言葉を飲み込む。
「・・・・・・でも。それじゃあ結局私たちは? 救世主の元へ行けないんなら、どうしたらいいのよ?」
まぁ当然そういう風になるわな。
問題はここからだ。
「そうだね。君たちには補助と、最終手段枠として協力してほしい。補助というのは実際に作戦を実行するときだけの話ではなく、準備も含める。君たちにはゴローの武装及び、その他支援用のメカの製造を手伝ってほしい」
誰の言葉も割り込ませないように、多少早口で言い切る。
言い切って、そして・・・・・・。
「は・・・・・・?」
さくらの眉間に皺が寄る。
その表情は怒りかそれともそれ以外の何かか。
それは僕には分からない。
だが、確実に一つ分かることはある。
案の定、完全に、さくらのスイッチを入れてしまった。
予想は出来ていたが、やはりこうなるか。
こんな時こそ飲み物の一つでも欲しいところだが、生憎みんな焦り気味なもんだからそんなものは今この場所に無かった。
続きます。