スペクターズ(3)
続きです。
「きららちゃん、大丈夫ですかね・・・・・・」
「まぁ、大丈夫とは遠いけど・・・・・・きっと大丈夫だろ」
すっかり日は落ち、街には夜の幕が降りている。
今日も今日とて、どらこちゃんは私の部屋の私のベッドに居た。
夏休み中の大体六割くらいの日数は居たんじゃなかろうか。
お母さんの言葉はいつの間にか「今日も来たの?」から「今日は居ないの?」に変わり、お父さんですら酔っ払って帰って来たときお店の持ち帰りをどらこちゃんの分も引っ提げてきたくらいだ。
夏休み明けはむしろ居ないから調子が狂うとかもありそう。
そんなどらこちゃんだが、今は一緒に居てくれて本当にありがたかった。
何かに怯えてるとか、そういうのじゃない。
ただただ心細かったのだ。
きららちゃんが、目の前でアンキラサウルスに食べられた。
そんなのを見てしまったら、不安で不安で仕方ない。
一人で居たら、きっとこの不安は抱えきれない。
だから、何の根拠が無くても「大丈夫」と言ってくれる人が必要だった。
そういう人は、たぶんさくらちゃんにも必要で・・・・・・。
何だかんだ言っても二人は仲良しだったから、だからスバルから貰った端末はさくらちゃんに渡した。
目覚めたときも、酷く困惑していたし。
「これから先、どうすりゃいんだろな」
「先って・・・・・・?」
やらなきゃならないことは山積みで、だからそれのどれを指しているのか分からなかった。
けれども、やっぱり今一番問題なのは・・・・・・。
「きらら・・・・・・助けなきゃだろ? 負けっぱなしでいるわけにゃいかんし、救世主もほっといていいような奴じゃないってはっきり分かった。なんとかアイツを倒さないと」
「そうですね・・・・・・」
救世主と私たちの間にある力の差は歴然だった。
全く太刀打ち出来ない。
そしてきららちゃんを食べてから手に入れたきららちゃんの能力。
あれがどうしようもないくらいに強力なのだ。
きららちゃんがああいう使い方をしているのは見たことがないが、あの力を使って壊れた体を元に戻し、そしてどらこちゃんの武器を一瞬で砂塵に変えていた。
つまり、一撃で仕留められなければアウト。
私たちが触れられてもアウトというわけだ。
どれだけ致命傷を与えても一瞬で治せてしまうし、私たちの体も一瞬で砂塵に変えられてしまう。
救世主はそうすることは一切躊躇わないだろう。
本当にとんでもない力だ。
けれども、そんな奴を相手にしないといけない。
もちろんそのつもりだけど、無策で勝てる相手じゃない。
だからこれから先どうするか、それを考えなければならないのだ。
「あと・・・・・・時間どれくらいあるんでしょう・・・・・・」
救世主がいつまできららちゃんを生かしているか分からない。
だから準備にかけられる時間も限られている。
その上どのくらいその期間があるのかわからない。
「やれることをやるしかない」
そう言ってどらこちゃんは、自分に出来ることの少なさにやりきれないといった表情をした。
「私たちに出来ること・・・・・・」
私もみんなみたいに不思議な力が使えるようになって、そしたらもう何でも解決出来て、沢山の人を救えるようになると思っていた。
けれども、その結果は友達一人も守れなかった。
力があるだけじゃ、誰も救えはしないのだ。
でも、他の人よりそのチャンスはあるはず。
だから残るものは・・・・・・。
「やれることをやるしかない・・・・・・ですね」
気持ちの準備は出来ている。
今までに無い強敵。
殺人を厭わない理不尽の塊。
それでも私は戦う。
「幸いスバルに考えがあるらしいし・・・・・・なら今は多少焦ったいが、待つ、だな」
夜の色は濃くなっていく。
いつもよりいくらか緩慢に、時間は過ぎていく。
不安な夜を乗り越えるため、どらこちゃんの腕の中に潜り込んで目を閉じた。
続きます。