救世主II(31)
続きです。
光が溢れる。
歪んだ景色が、段々と整っていく。
現れると世界は、先程までの迷宮とは異なる完全な屋外。
ここがどこなのか、どれだけの距離を超えたのか、それはさっぱり分からない。
そして、少年のことも・・・・・・。
「助かった・・・・・・が、あんたいったい誰なんだ?」
この少年のおかげで逃げおおせたわけだが、やっぱりどう見てもその姿に見覚えがなかった。
スバルの知り合いのようだし、正直どこまで信頼できるかも分からない。
「別に・・・・・・。俺は誰でもない。呼ばれたから来たまでだ」
「でも、とりあえずはありがとうございます」
「お、おう・・・・・・」
少年はみこの言葉にやりづらそうに目を背ける。
その態度を見るに、やはり何かありそうだった。
「それで・・・・・・ここは・・・・・・?」
空を見上げればのどかに雲が流れているのが見える。
周囲に建物が密集している様子はなく、近くには公園らしき場所と、それの周囲にいくつかのブロックに分かれて民家が並んでいた。
車の走る音が聞こえてくるので、どうも人はある程度多い場所らしい。
「さっきの場所とそう離れちゃいないよ」
「そうなのか・・・・・・」
言われてみれば、街路樹の種類も同じで確かにそう離れてはいない様子だった。
「その・・・・・・それで、ですね・・・・・・」
みこが言いづらそうに少年の表情をチラチラ窺う。
わざとらしく周囲を見回すようにして、あたしたちにも何か訴えているようだった。
「「あ・・・・・・」」
その意味にスバルと同時に気づく。
きらら以外に、もう一人居ない人物がいる。
「少年、悪いが・・・・・・」
スバルが苦々しい表情をしながら、みこの伝えようとした言葉を口にする。
「もう一回、あそこに行ってくれないか?」
「は・・・・・・?」
「実はもう一人仲間が居たんだ」
スバルの言葉に少年が後頭部を掻く。
スバルが仲間という言葉を使っているし、あたしらにとっても仲間という認識で良いのだろうか。
だが、ひとまずは至急さくらを回収してきてもらいたいところだ。
あわよくばきららも・・・・・・。
「いや、それは厳しい・・・・・・か」
もう向こうの状況は分からない。
ゴローがピンピンしているから、きららが生きているということは分かる。
もっともそれがいつまで続くか分からない。
きららの運命は既に救世主の手中にある。
時間は、きっともうそんなに無い。
少年はスバルの声にはっきりと表情で難色を示す。
しかし言葉はその表情と真逆だった。
「分かったよ・・・・・・」
あたしたちはきららを置いて逃げて来た。
助けられるのか、本当に逃げて来てしまって良かったのか。
後悔しそうになるが、それでしょうがなかったとすぐに気づく。
あの時、他にどう・・・・・・何が出来たというのか・・・・・・。
ゴローが俯き気味に口を開く。
「今は・・・・・・仕方ないニャ。とにかくさくらを・・・・・・ニャ」
いったいゴローがどんな気持ちでその言葉を口にしたのか。
例えその気持ちがどんなものでも、それでもあたしたちは逃げるしかなかった。
負けた。
そう思う。
完膚なきまでの敗北。
得たものは、何もありはしなかった。
続きます。