草陰の虚像(17)
続きです!!
「さて......じゃあ私の話......聞いてもらおうか!」
剣を振り回し、その切っ先をさくらに向ける。
「ふん......収穫にはまだ早いけど......しょうがないか......」
伸びをしながら言うさくらの背後で、植物のツルが蠢くのを感じる。
「来るニャ......!」
なんと言っても相手の攻撃は不可視だ。来ると言ったってどこからどう来るのか、それは勘に頼る他ない。
直立不動のさくらに向かって真っ直ぐ駆け出す。
それを見たさくらの眉がピクリと動いた。
たぶん今だ......!
無理矢理体を倒して左に逸れる。
右側に伸ばした剣には確かな手ごたえがある。
勘が的中したのだ。
その位置から跳躍する。
目標はもちろんさくらだ。
さくらの表情が不機嫌そうに歪む。
「調子に......乗るなっ!!」
瞬間、衝撃が私を襲い地面に叩き落される。
靴の底で踏ん張り、勢いを殺す。
決して視線はさくらから外さない。さくらのちょっとした動きも見落とすわけにはいかないのだ。
「やっぱ見えないのはなぁ......」
「しかもツルは一本じゃなさそうニャ......」
最低でも二本あることは確定だ。
剣一本じゃ部が悪いかもしれない。
「盾があれば、攻撃箇所をある程度限定出来るニャ!」
言いながらゴローが下敷きを差し出す。
「なるほど......」
それを受け取ろうと手を伸ばすが、下敷きはゴローの手を離れて飛んでいってしまう。
「なっ......」
「させるもんですか......」
私の背後で下敷きは締め上げられる。
無理矢理折り曲げられた下敷きが地面を転がった。
「この......!」
「よそ見してる時間はないわよ?」
パンっと空気の弾ける音がする。
思わず瞑ってしまった目を開くと、私の体は大きく打ち上げられていた。
空気を蹴って姿勢を戻すが、その体にもツルが巻きつく。
「くっそ!」
「さっきの下敷きと同じようにしてあげる」
さくらが笑うと、ツルの力が増し四肢が微塵も動かなくなってしまう。
剣を振ろうにも手が動かない。
「っのぉぉぉぉぉっ!」
全身に力を込めるが、その度に締め上げる力が強くなる。
「......あなたも意外にしぶといのね。ゴキブリ見たい」
中指でも立てたいところだが、身動きは以前とれない。
絶対に離すまいとしていた剣も手のひらから滑り落ちてしまう。
さくらは心底つまらなそうに締める力を強めるだけだ。
その目は「勝敗は決した」と語っている。
「......だけど、ここで終わるボクらじゃないニャ!」
「ゴロー......!?」
ゴローが引きずるようにして持っているのは先程私が落とした剣だ。
「......!」
さくらが反応するが、その時は既に遠心力に任せて剣が放たれた後だった。
ゴローが放った剣は私を拘束するツルを断ってみせた。
巻きついていたツルは解け、私はそのまま落下する。
着地すると丁度その場所に剣が突き刺さった。
「さてさて......仕切り直しだね」
剣を引き抜き、肩に乗せる。
ゴローも私の横に並んで腕を組んでポーズを決めている。
「そっちは二人ってわけね......。気に入らない」
勝ちを確信していただけあって、相当頭に来ているみたいだ。
髪をかきあげて、怒りに肩を震わせる。
今度は円を書くような軌道で駆ける。
さくらはタイミングを見ているようで、攻撃はまだ飛んでこない。
「いける......!」
距離は確実に縮まる。
さくらは一歩も動かずタイミングを見計らっている。その目は私を追っているが、避けようともしない。
勝ちはすぐそこに迫っている。
なら、遠慮なく......!
さくらの真正面から斬りかかる。
刃は肩から入り、そのまま斜め下に滑っていく。手ごたえは確か。
確実に切っている。
「これは流石に致命傷ニャ!」
ゴローの嬉々とした声が背後で響く。
私の目には確かに倒れゆくさくらが写っていた。
続きます!!