救世主II(25)
続きです。
「ゴロー! パワード!!」
「わ・・・・・・分かったニャ・・・・・・」
私の手を振り解こうと暴れる陽子ちゃんを、ゴローに無理矢理拘束するように頼む。
「ねぇ! やめてよ! 戻る、戻るの!」
そう言って聞かない陽子ちゃんを、ゴローは複雑な表情をしながらも捕まえる。
私だって、こんな強引なことはしたくない。
けれどもやり方にこだわっている時間は無い。
早く逃げ出さないと、私たちの命は無い。
「みんなは・・・・・・どこに・・・・・・」
焦ってあちこち走り回るが、自分がどうやってここまで来たかも分からないし、みんなのもとに戻れるかどうか。
混乱していた所為でいつ構造が変わったのか分からない。
あの密室以外の場所の構造も変化しているのか・・・・・・もしそうだとすれば手の打ちようがない。
走り回っても、似たような景色が流れていくばかり。
走っても走っても、何にも近づかない。
ただあの密室から離れるだけだった。
たぶん救世主の追跡はあの密室からスタートする。
どれほどの速度で移動出来るのか分からないが、追いつかれるまでどれくらいかかるか。
流石に私より足が遅い可能性なんて、無いのだった。
「お姉ちゃん・・・・・・!」
ゴローの腕の中で暴れていた陽子ちゃんが、まるでヒーローの姿でも見つけたみたいに声を上げる。
「ああ、ダメだ。まだ・・・・・・」
陽子ちゃんが私のことをそんな声色で呼んでくれるはずがない。
だから私にとってはその声は死刑宣告に等しかった。
そもそもアンキラサウルスが走って追いかけてくるだなんて思っていたこと、そこから既に間違いだった。
陽子ちゃんが助けを求めて、ゴローの腕の隙間から手を伸ばす。
小さな手のひらは、真っ直ぐに私の前に立ち塞がる救世主に伸びている。
「・・・・・・陽子。やはり・・・・・・」
私たちの姿に何を思ったか、目の前に瞬間移動して来た救世主が人間のような複雑な表情を浮かべる。
「お姉ちゃん!」
「ゴロー・・・・・・陽子ちゃんを放さないでよ」
「わ、分かってるニャ」
こうして相見えてしまえば、最早逃げることは叶わないだろう。
戦って敵うかも分からないが。
「陽子ちゃん。見てて。アイツがどういうやつか教えてあげる」
壁を砕いた剣を構える。
救世主もそれを見て、手のひらに鉄パイプを呼び出した。
「やめてよ・・・・・・やめてよ!」
陽子ちゃんの叫び声が頭の奥の方に突き刺さる。
心の中が掻き乱される。
「君、迷っているね。私に迷いは無いよ・・・・・・もう、ね」
「っるさいなぁ・・・・・・ッ!」
アンキラサウルスとの対話などそっちのけで叫ぶ。
迷いを見抜かれている。
弱さを見抜かれている。
その事実が私を吠えさせた。
「殺すべきは全部で・・・・・・6人か・・・・・・」
この程度の人数、指折り数える必要も無いと救世主がため息を吐く。
「世界を救う。それが、私の使命・・・・・・!」
パイプを握る手に力を込めた救世主の瞳には、弱さや迷いなど微塵も無かった。
強い意志、覚悟・・・・・・。
本当に人間のようだった。
相手は何人も殺した怪物で、普通ならまず関わることの無いような存在で・・・・・・。
アンキラサウルスなんて訳わかんなくて、だけど今の救世主は人間のようにしか見えなかった。
今までのアンキラサウルスと違う明確な意思のある瞳。
その瞳を覗いてしまえば、私の迷いは更に大きくなる。
救世主の上体が沈む。
それはこちらへの踏み込み。
私もその接近に、剣を振り上げて飛び込んで行った。
続きます。