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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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救世主II(23)

続きです。

 どれくらいボーっとしていたか・・・・・・。

一瞬だったようにも感じるし、数時間こうしていたような気もする。


 きららを見つけてから頭の中を満たしていた焦りは消え去り、状況はまだよくないのになんだか落ち着いてしまっていた。


 胸の内の原動力が無くなり、今は疲れた肉体を休ませたい・・・・・・そういう思いが先行する。

だがいつまでもそうしているわけにはいかない。


「さて・・・・・・あんた、みんながどこに居るか分かる?」


 味気ない壁に背中を預け、視線だけきららに送る。

きららは相変わらず膝を抱えて縮こまっていた。


「い、いや・・・・・・」


 膝に鼻まで埋めて、か細い声で答えが返って来る。


「まぁそうよね・・・・・・」


 初めから期待はしてない。

というか真っ先に逃げ出したきららが知っているはずなどないのは分かりきっていた。


「ねぇ・・・・・・」


「? 何よ・・・・・・?」


 きららの足の指がもぞもぞ動く。

きららは沈んだ声で、私を呼んだ。


「私、ここに居ないんだ」


 そう呟いて、再び膝に顔を埋める。

その声は確かに耳に届いたのだけど、奇妙な言い回しに理解が追いつかなかった。


「・・・・・・は?」


 少なくとも言葉の意味だけはやっと嚥下して遅れてリアクションする。

少し心拍数が上がった。


 きららは答えない。

虚ろに宙を見つめて、電灯の白い光を浴びていた。


「私・・・・・・どこに居るのかな・・・・・・?」


「な、何言って・・・・・・な!?」


 困惑しているのに、更に変化が押し寄せる。

流れは変わった・・・・・・はずだったのに。

その変化は、おそらく良いものではなかった。


 きららの影が薄まる。

照明が体を透過する。


「ちょ、ちょっと・・・・・・居なくならないでよ!」


 慌ててその腕に手を伸ばすが、その手は何にも触れることは無い。

私の指すら、透過する。


「ちょっと・・・・・・。何よ。なんなのよ・・・・・・」


 状況に頭が追いつかない。

こんなことなら休憩してる暇なんか無かった。

もっと早く言ってくれれば・・・・・・。


 何が起きたかを理解することも出来ずに、後悔ばかりが溢れ出る。


 何で?

どうしてこんなことにならなければならないのか。


 そうしている間にも、きららの存在が薄まっていく。

消えていく。

やっと掴まえたのに、理不尽にすり抜けていく。


「ねぇ、見つけてよ・・・・・・。私を見つけてよ・・・・・・」


 きららの瞳は不安で潤んでいる。

私に縋るように、必死に言葉を投げかけている。


 そう、少なくともきららが消えるわけじゃない。

最初からここには居なかったのだ。


 どうやってやったのかは分からないが、どうにかして私に助けを求めている。


「きら・・・・・・」


 もっと。

もっと情報が欲しい。


 そう思って名前を呼ぼうとするが、既にそこには誰もいない。


「くそ・・・・・・!」


 再び私の胸の内に動力が生まれる。

休んでられない。

歩かなければならない。


 助けを求めているなら、状況は良くないはずだ。


「大丈夫、大丈夫・・・・・・」


 まだ冷静だ。

まだ冷静になれる。


 乱れそうになる呼吸を自己暗示で落ち着ける。


 急かない。

焦らない。

絶対に冷静に。


 焦りは行動に綻びを生む。

この状況に私自身が落ち入るまで散々綻んでいたんだからよく分かる。


 今は選択を誤っていい時じゃない。


「きららは私に助けを求めた・・・・・・」


 違う。

狙って私を頼ったわけじゃない。


 部屋で誰かが来るのを待っていたとなると、おそらく誰がどこに居るかは把握出来ていない。

最初にみんなが居た場所にあの幻影を出さなかったのにも理由があるはずだ。

考えられるとすればあの幻影の制約として距離があると考えられる。


「なら逆に言えばある程度近くに・・・・・・」


 すぐにでも駆け出しそうになる足を力強く踏み締めて制御する。

まだ行動に出てはいけない。

まだ考えなければならない。


「私・・・・・・案外行動が先なタイプみたいね・・・・・・」


 勝手に自分はある程度賢いと思っていたが、そうでもないらしい。

だけど今は無理矢理にでも賢くならなければならない。


 きららもおそらく行動が先なタイプ。

なら自ら私たちを探しに歩いて出ていてもおかしくない。

怯えてはいたが、それがずっと続くような性格じゃないはずだ。

だからむしろあちこち動き回ってないと不自然だ。


 しかし幻影のきららは蹲ってただ待っていた。

本人もそうしていると考えるのが妥当だろう。


 つまり探しに出られない理由があるはずだ。

そうなると・・・・・・。


「単純に出られない・・・・・・?」


 つまり出口が無い。

完全な密室に閉じ込められている?


「なら歩いて探すより・・・・・・」


 歩いたところで、見つけられるかは定かではない。


 じゃあどう探すのか。

思いつく方法が、一つだけあった。


「ここからどれくらい距離があるか分からないけど・・・・・・」


 やったことも、出来るかどうかも分からない。

ただもしある程度近くに居るすればやってみる価値はある。


 植物が根を張る力には凄まじいものがある。

時間は必要かもしれない。

どれくらいのエネルギーを要するかも分からない。

けれどきららに壊せない壁でも超える力があるかもしれない。


 無理はしない。

近くに居なそうなら、エネルギーがとても足りなそうなら、すぐにでも止める。

球があっても、能力を使えばやっぱり何かが減っているのだ。

集中力だとか、体力だとか・・・・・・。

だから温存が必要。


 しかし・・・・・・。

一度は試さないと、気が済まない。


 蔓を、私の周囲に張り巡らせる。

出来るだけ広く、力強く。

そしてどこにも繋がっていない部屋を探知するのだ。


「来い・・・・・・」


 スバルが言っていた起動プロセスをガン無視して、武器を呼び出す。

何の力か空中に浮いた球が、姿を変える。


 球を核に、闇が集う。

その闇は凝縮され、そして以前とは違う姿を形作った。


 軽く扱い易さに特化した短剣ではなく、重く鋭利な一振りの刀。

照らす光を全て飲み込んでしまうような、純黒。


 その飾り気のない刀を、地面に突き刺した。

そこを中心に、蔓が広がっていく。


 廊下を這い回り、その先端を壁に潜らせていく。


「どこにも繋がってない部屋。・・・・・・まずドアがあるところは無視できる・・・・・・」


 やっぱり多少無茶なようで、もの凄く集中力が要る。

気を抜けば全ての蔓が一瞬で消えてしまいそうになる。


 だが蔓はまだ答えに辿り着かない。

正直ここはもうやめにした方が賢い。

だが、だからやめられるかというと、そうではなかった。


 見つかるかもしれない。

そう思うと、あと少し、まだ少しと続けてしまう。


 馬鹿だ。

あれ程冷静でいようとしたのに、なんにもうまくいってない。


 早くも集中が切れかかって、いくつかの蔓が消えてしまう。

無駄な情報を減らすために、目を閉じる。


 息も上がって、頭痛に苛まれる。

瞼の裏の暗闇がチカチカする。


 もうダメかと思ったそのとき・・・・・・。


「・・・・・・? 出口が・・・・・・無い」


 奇妙な感触。

どこにも繋がらない部屋。


 瞬間・・・・・・。


「到達したな」


「誰・・・・・・!?」


 答えを掴んだ瞬間、背後から声がする。

少なくとも仲間の声じゃない。

そしてこの場所には仲間以外には敵しか居ないだろう。


 刀を引き抜いて、それを振るのと同時に振り向く。

だがそれより早く鈍色が閃いた。


 鈍色・・・・・・鉄パイプは私の刀と衝突して甲高い音を立てる。

私の刀はそれ以外の何かに触れることは無かった。


 本体は・・・・・・私の斬撃の下。

しゃがんで地面に手を着いている。


 見覚えのある姿。

救世主は本当にユノの姿をしていた。


「ここか・・・・・・」


 救世主は何かを探って、そして何かを見つけたようだった。


「・・・・・・ここは!?」


 私をそっちのけで思考を巡らせるその背中に刀を振り下ろす。


「残念だけど、この世界には私しか居ないよ」


 その言葉に、斬撃は阻まれた。


「な・・・・・・!?」


 きららの幻影が再び現れ、そして私の刀を片手で受け止めている。


 きららの姿。

きららの声。

だけれどきららではないことはすぐに分かった。


「君が知ってるとは・・・・・・」


 きららの幻影は救世主の代わりに語る。

そうしている間に、救世主は焦った様子を見せて、そして目の前から消えてしまった。

続きます。

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