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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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救世主II(16)

続きです。

「きらら!」


 突然訪れる暗闇、それに怯えて逃げる仲間。

これは何をどう考えてもマズい。


 点けた電気が消されたとなれば、相手はこちらの位置が分かっているということになる。

自分でねじ曲げた建物だから果たして電気を消すのにスイッチを押しに来る必要があるのか不明だが、もしそうだとすればすぐ近くに居ることになる。


 となれば視界を奪い次にしてくることは・・・・・・。


「くそ・・・・・・」


 誰に矛先が向いているでもない悪態をつき、ポケットに手を突っ込む。

そしてその名を呼んだ。


「禁忌武装・転、起動・・・・・・!」


 旧式の念じるだの何だのの過程を省き、小さな球体は呼び声に答える。

震え上がり、膨れ上がる。


 微量の火の粉を伴って広がる黄金の光。

それは非力な人間の拳を強靭な竜の爪へと変えた。


「見た目も変わんのか・・・・・・」


 鉤爪・・・・・・という程の長さは無く、拳から伸びる爪は切り裂くというよりは補助的に打撃の強化に繋がっているようだ。

だから短くても、太く鋭い。


 武器を喚び起こしたらやることは一つ。


「来い・・・・・・!!」


 手のひらに熱を集める。

空気中の粒子を取り込み、それが力に変換される。


 黄金のガントレットに血管のように炎を象徴する赤い光が走る。

そしてすぐさまそれは発火を引き起こした。


 両の拳が暗闇を切り裂く。

その炎の光はすぐそばに居る誰かの顔を照らした。


 一瞬拳を構えかけるが、すぐにその力を抜く。


「み、みこ・・・・・・大丈夫か?」


「はい・・・・・・私はなんとか・・・・・・」


 あたしが暗闇の中照らし出したのはみこの姿だった。

ひとまずはその姿を見つけて安堵するが、同時に異変にも気付いてしまう。


「・・・・・・さくらは? それにスバルも・・・・・・」


 どこかへ逃げて行ったきららはまぁ居ないとして、さくらもそれを追って行ったと考えれば不思議は無いように思う。

しかしスバルまでいないのはどうあったっておかしい。


 そんなことをみこに聞いても仕方ない。

その答えを知りようが無いからだ。


「ひ、ひとまず電気点けますね・・・・・・」


「あ、ああ・・・・・・頼む」


 みこの方に手を近づけて、そちら側を照らす。


「・・・・・・?」


 すると何とも言えない奇妙な違和感が生まれた。

その気持ち悪さの正体にはみこが気づく。


「あれ・・・・・・ここ、さっきまでの場所と違いますね・・・・・・」


 そう、どうも照らした景色の構造が記憶と噛み合わないのだ。

そんなに個性的な風景というわけでもないからすぐには分からなかったが、間違いなく最初に居た場所と違う。


「・・・・・・となるとスバルがどこかへ行ったんじゃなくて、あたしらが攫われたのか・・・・・・?」


 もしくはそもそもの造りをまるきり変えてしまったのか。


 そうしている間にもみこが電気を点けてくれる。

照らすということに関してはあたしの力より蛍光灯の方が優れているらしい。


「ひとまず警戒はしておかねーと」


「ですね」


 そう頷くみこの背中がまぁ無防備で心配になる。

いつどこから奇襲が来ても不思議じゃない。

のこのことスバルについて行ってしまったが、こうして敵のテリトリーに不用意に踏み込んでしまったのは失敗だっただろう。


「ひとまず、どうするか・・・・・・」


 暗闇の中からいきなり飛びかかって来てもおかしくなかったがそうはしなかったようだし、電気を点けた今でもアンキラサウルスの姿は無い。

相手の出方が分からない以上、こちらもどうしたものか・・・・・・。


「不利だな・・・・・・」


 相手は建物の構造が意のままだっていうんだから、踏み入ってしまった時点であたしらは既に不利だった。

強気に攻めることも出来ない。

相手がどこに居るんだか分からないし。


「探しに行きますか、みんな・・・・・・?」


「いやぁ、そうなんだが・・・・・・」


 結局それしか無い気がするが、そもそも合流出来ないようになっているかも分からない。

ならば下手に動かずむしろ相手の攻撃を待った方が良いかもしれない。

出来るようならそれで倒す。


 仲間を探すにしても、敵を迎え撃つにしても、どちらも致命的な部分が不確実なのだった。


「まぁ・・・・・・いや、そうだな。探すか」


 人間、悩んでる時間が一番無駄だ。

悩むにしても片手間で、だ。

どちらにしても不確実なら、もうどっちを選ぼうが関係ない。

後で後悔なりなんなりすればいい。

それなら、ただ待つよりは足を動かす方が性に合っているのだった。




 完全に出入り口の無い密室。

こんなところに閉じ込められるとしたら・・・・・・。


「完全に捕捉されてるってことかニャ・・・・・・」


 逃げ場のない完全隔離。

助けを呼べないし、呼んだところで来られない。

思えば突然の消灯も大きな音も、私を切り離すのが目的だったのかもしれない。

何故それが私だったのかを考えると・・・・・・。


「私が一番簡単だからか・・・・・・」


 ちょっとおどかせばいいんだから非常に楽ちんだろう。

思えば緊張と不安に加えて知らない町でのアウェー感・・・・・・は結局不安と同じか・・・・・・。

ともかく今日の私は様々な要因で少し乱れていた。

そういうのも見抜かれてしまったのかもしれない。


 まだふわふわとしっかりとした感覚の伴わない手足で踏ん張る。

逃げ道が無い以上、戦うしか無い。


「壁抜けでもしてくんのかな・・・・・・」


「どうだかニャ・・・・・・」


 だとしたら幽霊もアンキラサウルスもそんなに変わらないのかもしれない。

そうやって無理矢理幽霊を出来るだけ怖くない方向へ解釈する。

実害が出てるのはアンキラサウルスなのに幽霊の方が怖いというのはまた不思議なことだ。


 やがてそれは訪れる。

突如として壁に口を開けた穴。

何かのギャグみたいにグイッと押し広げられた出入り口。


 それを見て慌ててリュックに手を入れる。

だが、その穴から現れたのは思っていた姿とは違った。


「・・・・・・女の子・・・・・・?」


 現れると思っていたユノの姿も女の子には違いないが、出て来た子はユノには似ても似つかない。

私より二つか三つくらいは下のまだ幼い女の子だった。


 何らかの方法で姿を変えているかもしれないからまだ警戒は解かない。

一瞬幽霊説が頭をよぎったが見ないふりをした。


 そして女の子は幽霊のイメージとはかけ離れた人間らしい柔らかな表情で首を傾げる。


「あなた、誰?」


 見た目通りの幼く少し舌足らずな調子の声だった。


「ゴロー・・・・・・?」


「アンキラサウルスではないニャ・・・・・・」


 小声でゴローに確認をとる。


「もしかしたらゆうれ・・・・・・」


「わー! わー!!」


 大声でゴローの声を遮る。

アンキラサウルスじゃないなら安心だ。

絶対。


「・・・・・・?」


 女の子は私たちの会話を不思議そうに見つめている。


「ああ、えっと・・・・・・」


 何と言ったものか咄嗟に出てこない。

てか普通の子がこんなとこに居たら危なくない?


「その子・・・・・・しゃべるの?」


 ところが女の子はそんな心配はよそに、ゴローを指差す。


「かわいい」


 その言葉を受けて、ゴローはこちらにぐりんと顔を向けた。


「なんか久しぶりの感情が湧いてるニャ」


 暗に普段の待遇の改善を求めている。


 とりあえずゴローは女の子に一旦譲って、その腕に抱かれていてもらう。

そして・・・・・・。


「さて、どういうこっちゃ」


 残るのは女の子が居るという事実と、その子と閉じ込められているという事実。

訳が分からなかった。


「と、とりあえず・・・・・・私はきらら。あなたは・・・・・・?」


 遅れて少女の最初の言葉に答える。

少女はゴローをぎゅっと抱きしめて嬉しそうに顔を綻ばせた。


「わたし、よーこってゆーの! お月様と太陽の太陽の方! 陽子!」


 そう名乗った少女の笑顔は、こんな状況だっていうのに場違いにまさしく太陽のように明るかった。

続きます。

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