救世主II(11)
続きです。
辺りには色々な匂いが混ざって広がっている。
電車に揺られて、スバルの後ろに引っ付いて乗り換えして、そうして乗った電車にはたくさんの人が詰まっていた。
当然のように座る場所なんかなくて、私たちは窮屈に身を寄せ合って圧縮されている。
「す、ストレス・・・・・・」
「田舎だから高校の通学は電車必須よ。慣れなさい」
「そんなぁ・・・・・・」
私とさくらの話し声も、これだけ人が居れば自然とひそひそした声になった。
「みこ、大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
みこちゃんとどらこちゃんも、お互いの体でお互いの体を守りあっている。
さくらは別にそんなことしないので、私は時折誰かのカバンや腕にぶつかっていた。
背が低いのも災いして、大体それらは頭部に来る。
だけど。
けれども私のストレスはそこに由来するものじゃない。
雰囲気が変わって、否応なしに知らない遠い場所に来てしまったのだと実感する。
それは目的地に近づいてしまっていることをそのまま意味していた。
「いやすまないね・・・・・・。出来るだけ混まない内にとは思っていたんだが・・・・・・おっと、なかなか・・・・・・」
スバルが電車の揺れに体勢を崩し顔をしかめる。
私たちの身長ではつり革を掴むのも難しいし、本当にただ立っているので大変だった。
「あと何駅先かニャ?」
どうやら先程の揺れは停止に伴って発生したもののようで、またどこかも分からない駅に到着したみたいだった。
「そうだね。まだ後少しだ」
ゴローの言葉にスバルが頷く。
スバルは外に流れて行く人々を目で追っていた。
電車のドアが閉まる。
そしてすぐにのろのろと加速を始める。
だが気づけばすぐに速度は最高に達していた。
「大丈夫かな」
内心の不安が、つい口からこぼれてしまう。
今まで戦ってきたアンキラサウルスと何が違うというのか、どうにも落ち着かなかった。
それに加えて始めて訪れる場所。
「緊張してる?」
「そりゃね・・・・・・」
さくらに問われるが、緊張しない方が無理な話だった。
案外、私の心は脆いのかもしれない。
「大丈夫よ。きっと」
さくらのその言葉には、なんの根拠もない。
でも・・・・・・。
「うん」
けれども、私はその言葉でいくらか気が楽になるのだった。
寄りかかるものを求めるように、さくらの指先に手を伸ばす。
「・・・・・・」
いつもならすぐに振り払われていただろうが、私の不安を察したのか今は縋らせてくれた。
電車の中の冷房に肌を撫でられて、だけど今の私は繋いだ手のひらの温度にぬくもりを求めていた。
いかに緊張しても、不安でも、時間は過ぎて行くし、電車も遅れることなく進む。
それは本来いいことなのだけど、今はそう思えない。
情け無いことに、まだ着かないでほしいと思っている。
決意だとか、覚悟だとか、結局中途半端なまま。
「着いたよ」
スバルが開いたドアに鼻先を向ける。
遂に、戦場にたどり着いてしまった。
続きます。