草陰の虚像(15)
続きです!
「どなたかしら......?」
どらこちゃんの肩越しに見えるのは、上品な雰囲気の女性だった。
落ち着いた色合いのロングスカートがよく似合っている。
この人が、さくらちゃんのお母さんだ。
「さくらの......友達......です」
どらこちゃんが頰を掻きながら言う。
「さくらの......?」
「は、はい......」
緊張のあまり返事がやや食い気味になってしまった。冷たい汗が背中を伝う。
さくらちゃんのお母さんは不審そうな顔をしている。
「その......何しに来たのかしら?」
「あーっと......」
その質問を受けて、どらこちゃんは目を泳がせる。
「たぶん話を切り出すタイミングは今じゃないです。とりあえずお家に上げてもらわないと」
耳元で小さな声で囁く。
それにどらこちゃんは小さく頷いてみせた。
「さくらに呼ばれまして......」
「......」
さくら母の無言に、どらこちゃんが「やば。失敗したかも......」と視線で訴えてくる。
しかし、さくらちゃんのお母さんはため息を一つして外向けの笑顔を作った。
「まぁ......。とりあえず上がりなさい。あの子ももう少しで帰ってくる頃だから」
「ッ!!!!」
押し出された空気は強風となって私を襲う。
半球状のシールドが手首の方へ押し込まれるのを感じた。
「相変わらずうるさいなぁ......」
「でも上手く凌げてるニャ!」
実際作戦自体はかなり順調だ。
この調子ならあっさり片付くだろう。
アンキラサウルスが頭を押さえて呻く。
その様子を窺いながら、足元の小石を拾った。
その小石は青白い光と共に鋭いダーツへと姿を変える。
アンキラサウルスが咆哮をするのは、形勢を逆転させるときと、攻撃を弾くとき。どちらにせよこちらから攻めなければ使うことはない。
咆哮の呼び水には小石は最適なのだ。
いくらでも転がっているし、他の攻撃の射程外から攻撃出来る。
体勢を整えかかったアンキラサウルスに、左腕を伸ばして照準を合わせる。
「おりゃ!」
放り投げたらすぐさま、シールドを構える。
シールド越しにアンキラサウルスが吠えるのが見えた。
「オォッッ!!」
弾かれたダーツがシールドに突き刺さる。丁度眉間の位置だ。
「シールドが無ければ即死だった......」
アンキラサウルスはと言うと、頭を上に持ち上げた姿勢のままゆらりと倒れてしまった。
「終わったニャ」
ゴローと一緒に既に光の粒へと分解が始まっているその亡骸に歩み寄る。
「なんか間抜けだけど、ちょっと申し訳ない気持ちになるね......」
「まぁ......それもそうニャ」
光が宝石に吸収される。初対面のときとは違って宝石の内側で光の粒たちが球形に飛び回っているのが確認できた。
「綺麗だね、それ」
「自分じゃよく見えないニャ......」
今はそんなこと言っている時ではなかった。
「さくらを追わないと......」
どこかへ姿を消したさくらを探しに、さくらの家の方角に再び走り出した。
続きます!