救世主II(4)
続きです。
人の家にも関わらず、我が物顔で寝転がる。
ツルツルした木製の床が気持ちよかった。
その表面を撫でながら、地面に視線を這わせる。
そこにはあぐらをかいて座るスバルと、そのスバルの手元にある謎の端末に視線を注ぐみこちゃんとどらこちゃんが映った。
「あや・・・・・・? さくらは・・・・・・」
足りない面子を探して寝返りをうつと、すぐにその姿が見つかる。
さくらは私のそばで足を揃えて行儀良く座っていた。
「あんた人ん家で・・・・・・まぁいいけど・・・・・・」
さくらは私の視線を受けて呆れたようにため息をつく。
確かに今の私とさくらの姿は対照的だった。
「いやぁ昨日夜更かしして・・・・・・それでちょっと眠い」
言いながらさくらの膝に芋虫みたいによじ登る。
さくらは「ちょっと急に何よ!?」と驚くが、決して引き剥がすようなことはしなかった。
だからそれをいいことに、好き勝手する。
さくらのスカートに顔面を埋めて、匂いを付けるみたいにこすりつけた。
「暑苦しいわね・・・・・・」
さくらの手は私に触れるでもなく、しかし下ろすわけでもなく、中途半端な位置にとどまっている。
何故か顔を背けていた。
「ほんと、あつーい」
口ではそう言ってみるが、実際のところエアコン様様って感じで涼しかった。
眠いは眠いけど、このまま寝てしまいそうという程ではない。
埋めた顔の向きを変えて、うつ伏せから仰向けになった。
「ほんとスキンシップ好きよね・・・・・・」
「それはさくらでしょぉ」
未だ中途半端な位置にあるさくらの手を引き寄せる。
ほら、こーやってみるとやはりさくらは満更でもなさそうな表情を見せるのだ。
すると突然、部屋のドアが開け放たれる。
その音に思わずそちらを向いた。
「あ、お母さん・・・・・・」
来訪者をみこちゃんの声が出迎える。
やって来たみこちゃんマザーはその手に紙コップを乗せたお盆を持っていた。
紙コップの数を確認しながら、みこちゃんのお母さんが笑う。
「君ら知らない内に増えてるね・・・・・・」
「あ、どうも。スバルと申します。たぶんまた来ますんで」
「お、おぉ・・・・・・なんか変な子だね」
スバルの猫被りな態度に苦笑いしながら、お盆と脇に抱えていた麦茶のペットボトルを置く。
そして私とさくらの方を見て「邪魔しちゃ悪いかしら」と口元を押さえてそそくさと退散して行った。
「あ、ちょっと! 待ちなさいよ!」
さくらが慌てて呼び止めるがその声は届かない。
「んべ・・・・・・」
その八つ当たりをするみたいに膝から落とされてしまった。
やがて絶妙なタイミングでお母さんが戻って来る。
「さっきのは・・・・・・!」
しかしまたもやさくらの言い訳を許さずに追加の紙コップだけ置いて行った。
「どんまい」
「あんたの所為でしょうが」
ベシッと頭を引っ叩かれる。
やっぱりスキンシップ好きなのはそっちじゃないか。
さくらの手のひらは音の割に痛くない。
もしかしたらそういう練習をして・・・・・・ないか。
「仕方ないなぁ」
渋々さくらの膝に戻ろうと匍匐前進。
「おめぇら、見てるこっちが暑苦しいわ」
しかしどらこちゃんの言葉と、さくらの無言の圧力で、それは失敗に終わった。
続きます。