救世主II(3)
続きです。
窓に映る木の葉の影が、部屋の床に投影される。
風はあまり吹いていないらしく、動きは小さかった。
「さて・・・・・・。まぁ出し惜しみするようなことじゃないから、前置き無しに言うよ」
スバルは真面目な瞳でそう前置きする。
しとるやん、前置き。
「まず模倣犯というのは、簡単に言えば真似っこだよ。ユノの真似をして、人を襲っているんだ。それが僕の言う救世主。彼女はそう自称しているからね」
「いやユノも自称してたし、それならもっと分かりやすい呼び名にしてよ・・・・・・」
そんなわざわざややこしい呼び方をしないでも・・・・・・。
しかしこれで話は見えてきた。
ユノを仕留める前に、その真似っこからやっつけると、そういうわけだ。
そんなの勝手にやってくれよと言いたいところだが、実際に被害が出ているようだし仕方ない。
「ああ・・・・・・それだが、ユノは絶対に救世主を自称したりしないよ。色々訳ありでね・・・・・・。ユノは救世主って言葉が大嫌いだ」
「ああ・・・・・・そうなの・・・・・・」
一旦そう飲み込みかけて、引っかかる。
ユノは救世主を自称しない。
しかし私の記憶とはそれが合致しない。
何度目の接触だったか分からないが、確かに救世主を自称していたはずだった。
「あれ・・・・・・?」
見間違うはずもなく、確かにあれはユノだったはず。
「ユノ、救世主って言ってなかった・・・・・・?」
首を傾げてさくらの顔を覗き込む。
「少なくとも、私は・・・・・・聞いたこと無いわよ?」
さくらの反応はいまいち。
果たして単なる記憶違いなのか、それともさくらがたまたま居なかっただけなのか。
その問いに答えを出したのは、今は本棚の上のぬいぐるみの隣に落ち着いているゴローだった。
「確かに自称してたニャ。その時一緒に居たのは、確かノワールだけだったニャ」
「あ、ノワールか・・・・・・」
いまいち思い出しきれないが、ゴローが言うにはそうらしい。
つまり、私の記憶違いではなさそうだということだ。
「だそうだけど・・・・・・?」
どらこちゃんが億劫そうにスバルに向く。
「なんかまた隠してんじゃねぇだろうな? 一応あたしらが勝ってんだけど」
「ああ、いや・・・・・・そんなつもりは決して」
どらこちゃんが威圧すると、途端にスバルは曖昧な笑みを浮かべて取り繕った。
「まま、聞いてくれ。その模倣犯だが、姿はユノと同じだ。それだから、君がその時会ったのは模倣犯の方になる」
「同じ・・・・・・ですか?」
みこちゃんがスバルの言葉に、少し考える仕草をする。
そりゃ普通は同じ姿の人間が二人居るなんて普通有り得ない。
だが、そこはみこちゃん。
成り代わり経験者なので、答えを見つけるのにそう時間はかからなかった。
「となると、やっぱり超能力者ですか・・・・・・」
まぁ私たちに戦いを頼むわけだから、自動的にそうなるだろう。
てか普通の小学生にそんな何人もの人を傷つけるなんて出来ない。
「いや」
ところが、スバルの返答は違う。
「そこが一番重要なところなのだよ。模倣犯の正体は、能力者ではなくアンキラサウルスだ。僕がユノを解析した情報を奪って、ユノの力を模倣したアンキラサウルスなんだ」
「え・・・・・・」
思考が滞る。
完全に予想外の答えだった。
しかもユノの力を取り込んだということは・・・・・・。
「あんた、余計なことしてくれたわね」
私の同じことに考えが至ったさくらが舌打ちする。
「まぁ、予行練習には丁度いい、カモヨ・・・・・・」
さくらに迫られて、スバルの目が逃げる。
実際出来てしまったのだから、まぁ仕方ない。
ユノと同じ力を持ったアンキラサウルス。
まず間違いなく苦戦を強いられるだろう。
しかしそこにスバルは更に難題を付け足した。
「そ、それでなんだが・・・・・・ね。コミュニケーションが取れるアンキラサウルスということで、君らには退治ついでに対話を試みて欲しいんだ」
「はぁ!?」
さくらの怒りが噴火する。
ただでさえ勝てるかどうかってところなのに、流石にそれは・・・・・・。
「まぁまぁ、さくら。話が出来んなら戦わんでも済むかもしれんじゃないか」
「それは・・・・・・そう、ね」
どらこちゃんに宥められて、さくらの怒りがちょっとおさまる。
「でも、そうか・・・・・・」
どらこちゃんの言うように、確かに戦わなくても済むかもしれない。
もしかしたら仲間にだって・・・・・・。
「ま、そういうこと・・・・・・」
スバルがひとまず落ち着いたさくらに胸を撫で下ろす。
「実際君たちだって気になるだろ? アンキラサウルスがなんなのか。これはそれを知る数少ないチャンスなんだ」
アンキラサウルスとは一体何者か、それは私が昨晩考えたことの一つだ。
もう何度も戦っているが、知ってることは無いに等しい。
「分かった。・・・・・・みんなも、やってみようよ」
スバルの条件に頷いて、みんなの顔を見回す。
「まぁ、そうですね」
「つかそれしかねーわな、結局」
みこちゃんとどらこちゃんは好感触。
そしてさくらは・・・・・・。
「まぁ、きららが言うなら。スバルの役に立ってやるのは不服だけど」
なんだか余分なのも付いてた気がするけど、それで問題無いみたいだった。
「よし・・・・・・満場一致だね。ならこの際だ、色々知ってることは話そう」
そう言ってスバルはチラリと時計を見る。
「・・・・・・そうだね、ちょっと長話になりそうだから、一旦休憩でもしようか」
「あ、うん・・・・・・」
時刻はまだ昼前。
考えてみたら朝っぱら・・・・・・というほどの時刻でもないが、こんなに大勢で集まってなかなか迷惑な客かもしれない。
まぁみこちゃんのお母さんだし大丈夫だとは思うけど。
ともかくそんなわけで、一旦休憩という運びになった。
続きます。