救世主II(1)
続きです。
扇風機の羽がカラカラ回る。
静かな夜を古い蛍光灯が照らしていた。
下の階からはおばあちゃんが忙しなく歩くパタパタというスリッパの足音が鳴っていた。
もう九時過ぎだっていうのに大人は大変だ。
だが今日は訳あって私もそんな大人に仲間入りして夜更かし。
虫の張り付いた網戸から涼しい風が吹き込んでいた。
「もう夏休みも終わりだねぇ・・・・・・」
「そうだニャ・・・・・・」
宿題もまぁ何とかやって来て、残りわずかとなった。
ゴローの所為・・・・・・おかげで、だいぶ計画的に進めることが出来た。
別に夏休みが終わるからどうという話でもないはずなのだが、やはり終わりが近づくと一抹の寂しさを覚える。
とは言え、やらねばならないことは宿題以外にもある。
まだ私たちの夏休みは終われないのだ。
未だ世間を騒がせる傷害事件。
その犯人のユノ。
事件を止める為、彼女に勝たねばならない。
その能力はスバルが後々説明してくれるらしいが、今はまだよく分からない。
だから私に今出来ること、しなければならないことは・・・・・・。
「バルスぅ、余計なことを・・・・・・」
私は寝る間を惜しんで破壊された球を作り直していた。
別にただ作るだけならなんてことはないのだが、しかし今回はより丈夫にしなければならない。
球の強度についてはスバルも「バルスで一撃だとユノにはなぁ・・・・・・」と苦い表情をしていた。
眠気を誤魔化す為に口を開く。
「結局さぁ・・・・・・アンキラサウルスって何・・・・・・?」
話題は今まであまり触れることの無かった疑問。
ゲームの一部として存在しているが、未だその正体は謎だ。
その問いの答えに一番近いのは、おそらくゴローだった。
スバルも何か知っていそうだけど、やはり改名戦争そのものにはゴローの方が詳しいだろう。
「そうだニャ・・・・・・。キラキラ粒子から発現する怪物。そもそもキラキラ粒子って・・・・・・」
ゴローは私の質問を受けて、空中に円を描くように周りながら考える。
「まぁ・・・・・・よく分からない、ニャ」
結局返ってくる言葉は、答えにならない。
ゴローですら知らない。
アンキラサウルスは、キラキラ粒子は、改名戦争は、一体何・・・・・・?
「ていうかさ、薄々感じてたんだけど・・・・・・」
「何ニャ・・・・・・?」
「改名戦争・・・・・・名前気にしてる人あんま居なくない?」
戦う動機が名前だった人の方がおそらく少ないのではないか、そう思うくらいに名前が関係無かったことが多い。
ユノの目的も・・・・・・まぁよく分からないが、名前でないことは確かだ。
「それは・・・・・・言わない約束ニャ・・・・・・」
思えば私が戦い始めた理由は名前を変えさせない為だったが、それを「そういえばそうだったな」くらいには意識していない。
今やユノの野望を阻止するのが目的だ。
果たしてどっちの方が規模の大きい目的か。
そして、ユノとの戦いが終わったら、私の目的は一体何になるのだろうか。
「どうしたニャ・・・・・・?」
少し考え込むようにしていた私の顔をゴローが覗き込む。
その顔を見て、次の目的がどうなるかはすぐに分かった。
ユノに勝つの前提だけど。
球をこねる手を止めて、ゴローの顔を両手で挟む。
「な、何するニャ・・・・・・」
「ゴローってお父さんみたい」
こんな感じなのかなって、時々思う。
「・・・・・・」
私は今あるものを守りたい。
それは誰かの何かを奪ってしまうかもしれない、私にとっても、その誰かにとってもちょっと残酷な願いだった。
続きます。