点滅(14)
続きです。
とりあえずは戦いが終わったことで、興奮していた頭も段々と冷えてくる。
よくよく考えれば、崩落した天井の瓦礫に押し潰されなかったのもただの幸運だ。
「あ・・・・・・」
そこから被害状況に目が向く。
幸い私とバルス両方とも無事だが、しかし闘技場はボロボロだ。
天井がぶち抜かれてるのは流石に一目で分かるとして、起こった爆発は闘技場全体を焦がしていた。
体を起こさないまま、近くに居たさくらに視線を注ぐ。
その服が煤か何かで汚れているのを私は見逃さなかった。
「もしかして、爆発ってさくらたちも巻き込んだ・・・・・・?」
「ええ、そりゃもう」
さくらが気味の悪いくらい爽やかな笑みを浮かべる。
だが当然のように目は笑っていない。
「だ、大丈夫だったの・・・・・・?」
さくらたちはもう球が壊れた関係上、ダメージの肩代わりは無い。
すなわち危うく大火傷・・・・・・で済めばマシくらいのはずだ。
それなのに服が多少汚れる程度にとどまっている。
その疑問に答えたのはどらこちゃんだった。
「スバルが咄嗟の判断でお前らをシールドで覆ったんだよ。だからあたしらは観客席の裏に隠れる時間があった」
「・・・・・・それで、爆発のエネルギーの大部分はシールドの破裂と同時に上に逃げていったんです」
「・・・・・・な、なるほど。そ、それはよかった・・・・・・」
みこちゃんの補足もあって大体何が起きていたのかは理解する。
完全に爆心地に居た私には炎以外何も見えていなかったし、そんなことがあの一瞬で起きていたとは・・・・・・。
「はぁ・・・・・・別に良かないニャ。結果はまぁ何とかなったとは言え、みんなを危険に晒したニャ」
「それは・・・・・・そう、ですね・・・・・・」
完全に私が悪い自覚もあるし、口答えや言い逃れも出来ない。
冷静じゃなかったとはいえ、確かにこれはまずかっただろう。
闘技場の残骸がそれを物語っている。
「まぁ何にしたって過ぎたことよ。今私たちにはまだ考えるべきことがあるわ。そんな風にしょんぼりしてる暇無いのよ」
さくらが私の体を起こそうとこちらに手を伸ばす。
私はその手を取って立ち上がった。
「ま、とりあえず勝敗だよね。私は負けでいいけど」
私が立ち上がるのに合わせて、バルスも上半身を起こす。
髪を振って頭皮に風を送り込むようにしながらあぐらをかいた。
壊れた強化スーツから一部地肌が覗ける。
私も同じ感じではある。
バルスはそれを気にする様子も無く眩しそうに空を見上げて「破壊できなければ、すなわち負け。勝てなかったは全部負けだよ」と付け足した。
その理屈だと私も負けなのだが・・・・・・。
と、そこに更に足音がやって来る。
闘技場の被害を見て少し引きながらポケットに手を突っ込んで歩いているのはスバルだった。
「焔は完全におまけ機能だったんだけどね・・・・・・。本体も壊れるし、本来使われることを想定していない」
もうスバルの声はスピーカー越しに聞く声の方が馴染み深く、肉声には多少違和感すら覚えた。
「えぇ・・・・・・なんでそんな機能作ったの・・・・・・。バルス絶対使うじゃん」
実際使ったし。
バルスも「そうだね」とそれが当然だと言うように頷く。
スバルは私の言葉に、妹と同じ言葉を使い「そうだね」と答えた。
「これに関してはまぁ僕が馬鹿だったよ。余分な物でも作りたがる、どんな手を使ってでも壊したがる。お互いの性分が悪い方向に働いたわけだね」
スバルはそう言いながら項垂れる。
案外頭悪いのかもしれない。
いや、そんなことないか。
「ともかく、バルスも言ったように勝利は君たちに譲るよ。・・・・・・もともとどっちでも良かったし」
「あんたがそれ言っちゃうのね・・・・・・」
スバルの言いようにさくらが呆れる。
何だかんだ二人の間の溝も埋まりつつあるのかもしれない。
「えっと、じゃあ・・・・・・?」
みこちゃんが自信無さ気に中途半端な万歳のポーズをする。
私もそれにならって腕を思い切り振り上げた。
「やったぁ、勝ったぁ・・・・・・」
その勢いは言葉には伴わない。
あまりにも味のしない勝利だった。
「あ、言い忘れてたけど・・・・・・」
スバルがありもしない勝利の余韻に割り込む。
その続きを聞く前に、事態は先に起こった。
「あら・・・・・・?」
ビシッと、私たちの立つ床に亀裂が入る。
その瓦解の音と同時に、体重を支えていた安定感が消失した。
一瞬ふわりと風が吹き抜ける。
「だ・・・・・・わ、ぁ・・・・・・」
次の瞬間には、その風と一体となっての落下が始まっていた。
「言い忘れてたけど、闘技場がもう限界なんだ」
落下中なのに謎の冷静さでスバルが言う。
「言うのが遅い・・・・・・!!」
「だから忘れてたって・・・・・・」
瓦礫と一緒に、青色に投げ出される。
何からも解放されて、しかし引力からは逃げられない。
ところが田舎の町並みに吸い込まれる前に、私たちの体は金属に叩きつけられた。
何かと思って半身を起こすと、それはあの豆腐みたいなロボットの背中だとすぐに分かった。
飛び散る瓦礫たちも、急に空間から姿を現した姿形も様々なロボットたちが照射する謎の光線に溶かされていく。
青空を泳ぐ機械の群れは、正しく百鬼夜行だった。
続きます。