点滅(12)
続きです。
「・・・・・・しまった」
判断ミスを嘆いたってもうどうしようもない。
エネルギー球はすぐ目の前まで迫り、逃げる時間など与えてくれなかった。
球体の中で炎が渦巻くように模様を描く。
まるでそれは卵の中で胎動する生命のようだった。
退くことは出来ない。
ならば、活路を切り開くにはむしろ立ち向かうことが必要だった。
正面に迫るバルスの破壊衝動を形にした暴力に対して、私は刃で答える。
バルスの破壊を、真っ向から破壊する。
加速した思考が鈍重な体に動けと命じる。
勝ち抜く為に。
生き抜く為に。
ここで負けるわけには・・・・・・。
「いかない・・・・・・!!」
迫る光球を打ち返すように、防御姿勢からレーザーソードを振り上げる。
赤い軌跡が、炎に差し込む。
瞬間、熱が弾けた。
膨れ上がった熱い空気が私の体を包み込む。
高密度の火の粉が多重に重なり、吹き荒れていく。
だが、私の体が炎に飲まれることはなかった。
「いい・・・・・・いいね!」
私の出方を見て、バルスはいよいよ感極まったようにその瞳を見開く。
それと同時に、私とバルスの間の距離を埋めるように多重に壁が展開された。
やっぱり気が休まるタイミングが無い。
しかし、今ので興奮した私の神経は対応に遅れを取らない。
わざわざ壁を壊しながら突進してくるバルスに、こちらも立ち向かう。
私は壁を飛び越えて、間にある直線距離を一気に詰めた。
こちらを見上げるバルスの頭上に、体重を乗せてレーザーソードを振り下ろす。
バルスも多少大振りな動作で私の縦一閃を受け止めた。
私とバルスの虹彩に、赤とオレンジが混ざった光が映る。
遅れて衝撃がやって来た。
こっちが上から襲ったにも関わらず、私の体が弾かれる。
一撃の重さじゃ敵わない。
なら、立て続けに襲うまでだ。
着地と同時に方向転換し、攻めに転じる。
バルスの放つ光に食い下がる。
再び眼前に壁が出現する。
白く強靭な無敵の壁。
「じれったい・・・・・・!!」
だが避けることはせずに正面からぶつかった。
レーザーソードも使わずただのタックルで肩を衝突させる。
そして・・・・・・。
ワンテンポ遅れて壁がバカっと壊れる。
その先にはバルスの恍惚の表情。
そこに勢いのまま突っ込んだ。
「この・・・・・・ッ!」
バルスと互いの刀身をぶつけ合う。
弾き弾かれ、その度に点滅する光が辺りに散らばる。
「思えば光学兵器で来たのも賢かったね! レーザーはそう簡単に、壊せないッ!」
「全くの・・・・・・偶然だけどね!」
混じり合う光。
繰り返される衝突音。
私たちはお互い獣のような身のこなしで、本能のまま牙を剥きぶつかり合う。
そこには既に勝敗や損得勘定などない。
純粋に相手の破壊を求める。
戦いの高揚のみを求める。
私たちの刃が交差する度に、その手答えで実感する。
・・・・・・ああ、これが戦いなんだ・・・・・・!
バルスの大剣を重力で弾く。
仰反るバルスに刃を突き出すが、その腕を回し蹴りで弾かれる。
だがレーザーソードは離さない。
襲い来るバルスの斬撃をもう一度重力で防ぎ、私も跳ね上がるように剣を振り上げる。
バルスはその剣撃を上から押さえ込むようにして、私もまたその大剣を押し返すように力を込めた。
「「だぁぁぁぁぁ!!」」
お互いの顔が目の前にある。
その首に噛み付くように大きく口を開けて叫ぶ。
その結果、お互いの刃がお互いを押し返した。
その衝撃を柔軟に受け止めて着地する。
正面を見据えたお互いの視線がぶつかる。
バルスがニヤリと笑い、私もそれに笑みで答えた。
戦いがもたらした極度の集中は、私とバルスに謎の一体感を与える。
その視線から、手に取るようにその意思が分かる。
次の一撃で決まる。
この瞬間お互いに、その感覚に酔っていた。
続きます。