点滅(11)
続きです。
「不意打ちぃ・・・・・・ッ!!」
不意打ちを宣言した場合、それは果たして不意を打てているのか・・・・・・。
ともかく、勝ちをもぎ取る為に何の合図も無しにバルスに飛びかかった。
「おっと・・・・・・」
一瞬バルスは目を丸くするが、しかしやはり私の先制攻撃は通らない。
私のレーザーソードは容易く受け止められてしまった。
だが動じることはない。
もとより今ので決着がつくとも思っていないし、重要なのはそこからだった。
目の前でバルスの剣の炎がゆらめく。
その揺らぎを切り裂くように身を捻った。
「トライスラッシュ・・・・・・!」
その名を叫び、決まった動作を呼び起こす。
理屈を超えた、神速の斬撃。
体の回転と一緒に、赤い光の軌跡が弾ける。
およそ人間には反応しきれない速度。
初撃は防げても、二度目からはそうはいくまい。
その斬撃は速すぎて、私自身目に捉えることが出来ない。
手答えだけが頼りだった。
全ての斬撃の音が重なるように同時に鳴る。
腕にもしっかりとその衝撃を感じた。
「・・・・・・どうだ!」
一連の動作を終えて、やっとバルスの姿を捉える。
炎は私の斬撃に散らされ、その強化スーツの光が直接目に届いた。
だがそれらしい傷は無い。
ただ赤熱した刃から煙が登っているだけだった。
かき消された炎が再び刃に灯る。
「残念だったね」
するとバルスは顔の前からその大剣をどかし、反撃に出た。
「おわっ・・・・・・!?」
水平に流れた炎。
少し速度に目を回していた私は慌ててその下をくぐった。
しかしバルスの斬撃はそれすら見越していたかのように、頭上で急停止する。
それは私の脳天目掛けて、炎の熱を伴って振り下ろされた。
「っぶな!」
反射的にその斬撃の下にレーザーソードを滑り込ませる。
さっきはそのまま負けても最悪いいじゃないかくらいに思っていたが、現実はそうはいかない。
例えその攻撃が命を奪うものでないと知っていても、本能が防がずにはいられなかった。
「さっきの攻撃はね、君は速さ以外を犠牲にしすぎたよ」
「は、何言って・・・・・・」
話しながらもバルスの攻撃は止まない。
話しながら戦えるなんて大変器用なことだが、それをこっちにも求めないで欲しい。
受け止めた刃から炎が散る。
私のレーザーソードも衝撃ノイズが走るみたいに赤い光が散った。
「速い・・・・・・けど、一撃が軽い。だから押し切ることも不可能。そして何より・・・・・・斬撃の軌道がみんな一緒だよ」
「うっさ、いなぁ・・・・・・」
気にもしていなかったが、確かに言われてみればそうだった。
バルスは話しながらも、やはりその手を休めない。
その一撃は重く、的確。
防ぐので手一杯・・・・・・それどころかいつまで防ぎ切れるか分からなかった。
一度攻撃をしのげば、もう次の攻撃が始まっている。
それに割り込むタイミングが掴めない。
「あぁもう・・・・・・!!」
ヤケクソで、多少無謀ながら攻めに転じる。
突き出されたバルスの刀身に体を沿わせるようにしてこちらも刃を突き出した。
この勝負は一撃で決まる。
つまり被弾覚悟でこっちの攻撃を先に差し込めば・・・・・・!
暗闇の中、オレンジ色の炎と赤い電流のような光が点滅する。
すれ違う。
どちらの刃が先に届くか。
完全な賭けだった。
しかしそんな賭けなど、バルスには通用しない。
「んな・・・・・・!?」
あろうことか、バルスはその常人離れした反射速度をもってして、意外にも防御に転じた。
体を半回転させるのと同時に、半歩後退する。
そして私の攻撃の進路に大剣の鉄板のような刀身を割り込ませた。
レーザーの赤い光が、オレンジ色に交わる。
飲み込まれる。
そして押し返された。
「のわ・・・・・・っ!」
ただでさえ不安定だった姿勢に更に力が加わり体勢を崩す。
しかしここで転倒するようでは負け確定。
私もそれなりに戦ってきているというのを見せつけてやらねばなるまい。
突き出した足のつま先で、地面を捉える。
意地だけで仰け反りそうになる上半身を抑える。
そして地を捉えたつま先で、その体を全力で前へと進めた。
つま先を軸にバルスの大剣を回り込むように身を翻す。
「トライ・・・・・・スラッシュ!!」
その勢いも利用して再び斬撃を繰り出した。
技名は同じだが、さっきのとは違う。
バルスの言う通りにするのは不服ではあるが、速度を抑えた三連撃。
斬撃の軌道が三角形を描くように、赤い光を振り回した。
「まだ軌道は分かりやすいけど・・・・・・いいね、嬉しいよ!」
バルスは満面の笑みで私の斬撃を潜り抜ける。
付け焼き刃では全く歯が立たないようだった。
バルスからの反撃を食らわないように、その炎とすれ違うように距離を取る。
振り向いたところに、重力での攻撃を差し込んだ。
だがやはり相手の方が一枚上手。
こちらの手の内を全て読んだ上で、壁を生成し攻撃を防ぐ。
そしてその壁を超えて斬りかかって来た。
「くっ・・・・・・」
重力で弾き飛ばそうと手のひらを突き出す。
瞬間、こちらに斬りかかって来た人影はその衝撃を受けて砕けた。
「・・・・・・あ?」
その予想だにしなかった結果に頓狂な声が漏れる。
足元に砕けた破片が転がってくる。
そこでやっと思考が状況に追いついた。
「偽物・・・・・・!」
背後から迫っていた本物のバルスの斬撃を、なんとかレーザーソードを背中側に回して防御する。
振り向くと、すでに二撃目が迫っていた。
不安定な姿勢ながら、その攻撃の軌道にもレーザーを割り込ませる。
だが抉るようなバルスの攻撃に吹き飛ばされてしまった。
着地と同時に慌てて視線をバルスに戻す。
だがその時には既にバルスの大剣が正面で大口を開けていた。
その口腔内には、凝縮されたエネルギーが力強く輝いている。
「・・・・・・あ、やば」
咄嗟に防御姿勢を取るが、それが失敗だったことにもすぐ気付く。
これ、避けなきゃダメなやつじゃん。
続きます。