点滅(9)
続きです。
頭突きするようにしてどらこちゃんの背中を押す。
その頭を支えにしてどらこちゃんは立ち上がった。
私の頭は再び地面に押し付けられる。
「ぐえ」
「あ、悪い・・・・・・」
そう言うどらこちゃんは、既にだいぶダメージを貰っているようだった。
籠手の留め具のような部品が落ちて地面にカランと転がる。
黄金色も気持ちくすんでいるように見えた。
私も体を払いながら立ち上がる。
私の方は強化スーツのおかげか、もしくはあまり関係無いかもしれないけどそれ程のダメージは無かった。
「二人とも・・・・・・気をつけてください」
みこちゃんは冷静な眼差しで、いまだ消えない爆煙に銃口を向けていた。
ゆらめく煙の中でバルスの強化スーツの光が動く。
「よく見えないニャ・・・・・・」
いかんせん煙が邪魔でその詳細な様子は分からない。
だがバルスはすぐにその爆煙を大剣の一振りで切り裂く。
その大剣は、最初よりずっと明るく輝いていた。
それどころか・・・・・・。
「燃えてる・・・・・・」
瞬間、ジャリと壁の破片を踏む音がする。
バルスは身を捻りその大剣を水平に薙いだ。
「っ・・・・・・!?」
普通であればその刃は届かない距離。
だがその斬撃は、伸びたのだった。
燃え盛る炎が刀身以上の長さで渦巻く。
その炎が鼻先を照らした瞬間、私は慌てて手のひらで地を押して離れた。
どらこちゃんは逃げ遅れたみこちゃんを庇うようにその前に立ち塞がる。
さくらの姿は・・・・・・やはり見えないのだった。
「ちょっとスバル! 複雑な機能は無いんじゃなかったの!?」
『それは強化スーツの話だろ』
いきなりの予想外な攻撃に愚痴ると、ばっさりと速度されてしまった。
『それにその機能は複雑じゃない。扇風機の強弱みたいなその程度のものだよ』
燃え盛る炎の剣を再び肩に担いだバルスが首を鳴らすように回す。
その瞳には炎のオレンジ色が灯っていた。
「あれぇ? 王将は外したかぁ・・・・・・。まぁでもいい。目的は果たせたね」
「目的って・・・・・・」
バルスの言葉に記憶を遡る。
だがバルスが目的について語った記憶が思い当たらない。
いや、そもそも語っているとも限らないか。
どらこちゃんがみこちゃんを抱いて一時退却する。
私の近くにみこちゃんを降ろすと、その口を開いた。
「さくらだ」
「・・・・・・え?」
さくらが今のでどうなったと言うのか、すぐには分からない。
だが辺りを見渡せばその答えらしきものは見つかった。
「燃えてる・・・・・・?」
何も無い空間に、火が灯っている。
その火力は衰えることなく空間に広がっていった。
「植物だからよく燃えるわけだ」
どらこちゃんが難しい表情をしながら、その広がる炎を見つめる。
「えぇ・・・・・・そうね」
その言葉に答えるのは、燃え盛る炎の中から姿を現したさくらだった。
「さくら・・・・・・!?」
「あんたはこっち来るんじゃないわよ!」
炎に不可視を剥がされたさくらが短剣を手にバルスに駆けていく。
「あたしも行ってくる・・・・・・!」
「あ・・・・・・わ、私もしっかり狙ってます!」
そのさくらにどらこちゃんも着いて行った。
みこちゃんも慌てて狙いを定め始める。
そこから再び二対一の混戦が始まった。
今度はさくらの言いつけを守って、みこちゃんの隣でその様子を見守る。
「この・・・・・・当たりなさいよ!」
「くっそ、なんだこいつ・・・・・・」
どらこちゃんもさくらも素早く攻撃を繰り出すが、そのことごとくがかすりもしない。
剣に打ち返され、炎に威嚇され、二人ともやりづらそうに表情を歪めていた。
それを覗くみこちゃんも、引き金を引くに至らない。
同じ目線から見ているからよく分かるが、バルスの炎が煙幕のように邪魔してくるのと、また上手くどらこちゃんかさくらかのどちらかを盾にしているのでなかなか難しそうだった。
「この・・・・・・いいかげん!」
さくらが弾かれて一度は手を離れた短剣を逆手に持ち直す。
そして炎に自ら飛び込むようにして、バルスの首を刈ろうと剣を振るった。
だが・・・・・・。
「まず一人・・・・・・」
バルスが体の内側から湧き出す快楽に震えるような笑みを浮かべる。
さくらの黒い短剣は、バルスの剣と正面衝突していた。
「何よ、別に・・・・・・!」
そう言ってさくらが追撃しようとするが、遅れて短剣に亀裂が走る。
「さくら・・・・・・!」
どらこちゃんが叫んで手を伸ばすが間に合わない。
バルスがさくらの刃を軽く押し返すと、その亀裂は短剣全体に広がりそして短剣は粉々に砕けた。
「・・・・・・な」
さくらがその衝撃にふらりと後ろによろめく。
「そしてキミも・・・・・・!」
バルスはそのさくらの様子を確認することもなく、大剣の背でどらこちゃんが伸ばした拳を打ちすえる。
「あ、やば・・・・・・!」
どらこちゃんがやってしまったと口を大きく開く。
ただでさえぼろぼろだった籠手はその一撃で容易く壊れてしまった。
「私に勝ちたきゃ壊れないもので挑むべきだったね。まぁ壊れないものでも壊すけど」
バルスはどらこちゃんの拳を打ったその大剣を、そのままどらこちゃんの肩越しにこちらに向ける。
そしてその大剣は、まるでワニが口を開けるみたいにバカっと開いた。
その口の中には、炎のエネルギーを凝縮したような球体が輝いてる。
「ちょっとスバル! 複雑な機能!」
『だからそれは強化スーツの話だって』
スバルが苦笑いする声がマイクに入り込む。
そして、そのエネルギーの塊は大口を開けた大剣から射出された。
「いちかばちか・・・・・・!」
みこちゃんがダメもとでこちらに向かう球体に弾丸を放つが、それは球体に触れると即座に溶けてしまう。
「ダメでした・・・・・・!」
「うわっ・・・・・・!」
そうと分かるとみこちゃんはいち早く私を強引に突き飛ばす。
そして私が尻餅をついた瞬間に、みこちゃんの体は衝突と同時に膨れ上がった炎の球体に飲み込まれた。
「みこちゃーーーん!!」
手を伸ばして叫ぶ。
炎が散ると、その中からは無傷のみこちゃんが姿を現した。
だがその手から鉄砲は失われている。
「グッドラック、です」
みこちゃんは目を細めて、親指を立てる。
確かにみこちゃんの素早い判断には助けられたが、しかしこちらの戦力は大幅ダウン。
ぺたんと座っているみこちゃんの隣に、バルスの足が踏み下ろされた。
「さてさて、お楽しみだね」
「へ、へへ・・・・・・」
バルスの笑顔に合わせて笑ってみる。
全然お楽しみの予感はしなかった。
続きます。




