点滅(5)
続きです。
どらこちゃんの素早いヒットアンドアウェイに激しく火の粉が散る。
その逆側には不可視の連撃が絶え間なく続いていた。
しかしシールドはその一切の衝撃やダメージを吸収しては光るばかり。
炎に包まれて尚、効いている感じはしなかった。
「ダメだよ、ちゃんとしなきゃ! 適当で壊れるようなものじゃないよ!」
バルスが楽しそうに笑い、剣を振り上げる。
その刃はどらこちゃんの拳と交わり、そしてその遠心力でどらこちゃんを弾き飛ばした。
「くっ・・・・・・!」
回転を織り交ぜて勢いを殺したどらこちゃんが、走っていた私のすぐ横に着地する。
そのどらこちゃんは汗を拭うように顎の下に手をやっていたが、すぐにこちらに気づいた。
「あ、おう・・・・・・きらら。お前さくらに下がってろって言われてなかったか?」
「言われてたけど・・・・・・言われてた」
「何だそれ・・・・・・」
私の言葉に呆れて肩を揺するが、すぐにバルスの方に戻って行った。
私もその後を追って接近する。
が・・・・・・。
「お、お・・・・・・おお・・・・・・?」
見えない壁に遮られた。
その手触りは明らかに植物のもの。
案の定さくらの制止が入った。
「ちょっと、さっき言ったでしょ」
「おわぁ!?」
耳元で聞こえたさくらの声に肩が跳ねる。
反射的にそちらを振り向くと、さくらのジト目がすぐ近くにあった。
「・・・・・・何もそんなに驚かなくても・・・・・・」
さくらも私の振り向く勢いに押されたように一歩下がる。
私は私でよろめくように、少し下がった。
「あれ、てか・・・・・・あれ?」
バルスの方を見て首を傾げる。
そのシールドの様子から、不可視の攻撃はまだ続いているようだった。
しかしさくらはここに居る。
私の困惑の意味を悟ったさくらが不機嫌そうに口を開く。
「いや・・・・・・別に私は近づかなくたって攻撃出来るから。てか、あんたも知ってるでしょうが・・・・・・」
「え、えへへ・・・・・・それ程でも」
「何がよ・・・・・・」
さくらは心底疲れたような表情でため息をつく。
それにも笑って曖昧に答えた。
「・・・・・・それより、何で戻って来たのよ?」
無駄話してる暇はないと、さくらはバッサリ話題を切り替える。
つい誤魔化したくなってしまうが、やましいことは何も無いので正直に答えた。
「だってそのまま攻撃しててもさ、シールド壊れそうにないじゃん」
「それはそうかもしれないけど・・・・・・きららが前に出ることは無いわよ。明らかにそう立ち回った方が有利なんだから。策があるわけでもないし・・・・・・」
「いや・・・・・・あるよ、作戦」
ふふんと鼻を鳴らして、どんと胸を叩く。
さくらが面白くなさそうな顔をしているから、煽るように更に胸を叩いた。
「・・・・・・何よ」
不服そうではあるが、聞いてくる。
ついでに胸を叩いていた手は、さくらが操る蔓に締め付けられた。
「まぁ見てなって!」
「・・・・・・」
「あた・・・・・・いたた、た・・・・・・」
蔓の締め付けが強くなる。
ぎゅっと皮膚が巻き込まれて、それに引っ張られるように指は開いた。
「で、何よ・・・・・・?」
「ひでぇ・・・・・・」
解放された腕をさする。
ちょっと跡がついてた。
ひとしきり自分の左腕を労ったあとに、作戦の説明を始める。
「みこちゃんと攻撃のタイミングを合わせるの」
まさかの一文で説明が終わった。
流石に情報不足すぎて、さくらも頭の上に疑問符を浮かべている。
「あの、えっと・・・・・・こう定点攻撃で、一緒に、ズガーンってさ・・・・・・」
ジェスチャーも混じえて精一杯説明するが、脳の回路に蓋でもされたみたいにいい感じの言葉が出てこない。
まさかそういう能力に干渉されてるのか・・・・・・なんてとぼけてみるが、その実そもそもその回路が未発達なだけだった。
「・・・・・・まぁ、何となく言わんとすることは分かったわ・・・・・・」
さくらは頭はいいし、私が言ったことは全て伝わっているだろう。
問題はその私が言ったことが穴だらけなところだけど。
しかし逆に考えるとそれ以上何を伝える必要があるのか。
いや・・・・・・それが思いつかないから説明が一言で終わったのか・・・・・・。
「ま、まぁ・・・・・・ともかくそういうことだから!」
さくらから逃げるように下がる。
さくらは反射的にそれを捕まえようとするが、すぐにその手を下ろした。
そして、肩をすくめて息を吐く。
「まぁ・・・・・・いいわ。ただ攻撃を食らわないことが最優先よ。負けたくはないもの」
「守ってよ」
すぐそばで激しく火花が散っているというのにこんなことを話している暇があるのか。
とは言え実際に話せているのだからいいのだ。
さくらは私の言葉に一瞬面食らうような顔をして、だけどすぐにいつも通りの表情に戻った。
「そ、そうね。気が向いたら守ってあげる」
それだけ言うと、さくらは私を急かすようにうねる植物で私の背中をつつくのだった。
それに押されて、いよいよバルスに迫る。
その時にはもうさくらは見えなくなっていた。
続きます。




