草陰の虚像(13)
続きです。
三人と一匹でトイレに籠る。
ゴローは人生......ぬいぐるみ生二度目の女子トイレだ。
今回はさくらと戦う上で覚悟を決めているので、女子トイレでも割と落ち着いている。それはそれでどうなのだろうというところではある。
トイレで話し合う理由は、さくらを含めた他の生徒に話を聞かれない為だ。
聞かれて仕舞えば、おそらくさくらの居場所を奪うことに繋がってしまうだろう。
「それで......どうするつもりなんだ?」
周りに誰もいないことを確認したどらこちゃんが会話を切り出す。
さくらの抱える問題を何とかするという決定に関しては、既にどらこちゃんとみこちゃんには伝えてある。
「まずこれはさくら一人の問題じゃないニャ......。さくらと......」
「そのお母さん......ですよね」
みこちゃんの言葉にゴローが頷く。
「そうニャ。むしろ割合としてはお母さんが占めるところが大きいニャ。だからキミたち二人にはお母さんにアクションを起こしてもらいたいと考えているニャ」
「どうやって......?」
どらこちゃんが腕を組む。
「ボクらの武器は“知っている”ということだけニャ。彼女のお母さんも、彼女のことが嫌いなわけじゃない。彼女も彼女の母親もどうしたらいいか分からないだけニャ」
「確かに......どうすればいいのかなんて分かんないですよね......」
みこちゃんが言う通り、何が正解とは言えない状況だ。
だからって、目を伏せてこのままを続けるのは明らかに問題だ。
「だから......二人がちゃんと向き合って考えてもらわなきゃいけないの。正解が分からない。だからこそ二人で話し合う必要があると思う。だから......」
私が言葉を探している途中にどらこちゃんが口を開く。
「要は、さくらの母さんを説得しろってことだろ?二人には面と向かって話す覚悟が必要。だから、おまえらがさくら担当であたしらが母親担当ってわけだ」
「そゆこと」
「でも......大人相手に説得なんて......そんなの出来るんでしょうか......」
私たちはまだ子供ですし......とみこちゃん不安そうに呟く。
「子供だとしても、知ってる人を無視することは出来ないはずニャ。半ば脅しみたいになってしまうけれど、それを使う他手はないニャ。もっと遠回しなやり方の方がいいんだろうけど......キミたちにそんな器用な真似はたぶん出来ないニャ」
「「失礼な......」」
どらこちゃんと私の声が重なる。
どうもゴローの目には私たちは不器用に見えたらしい。
「キミたち......あんまり緻密な計画を立てるとかそう言うタイプじゃなくて、その場の勢いで進む脳筋タイプニャ。この見立ては間違いないニャ」
思い当たる節が無くはない。
細かいこととか苦手だし。
「と、ともかく!やるん......ですよね?」
両手のひらを握りしめて、みこちゃんが真剣な顔で言う。
みこちゃんはおそらくどっちかと言うと慎重そうなので、やはり躊躇いも大きいだろう。
どらこちゃんがみこちゃんのもとへ向かい、背中を押す。
「やるよ。......大丈夫。きっと上手くいくよ。“優しい”どらこと、それよりもっと優しいみこがいるんだ。お節介は得意分野だろ?」
そう言って、少し悪戯っぽく笑う。
その顔は凄くどらこちゃんに似合っている気がした。
続きます。