点滅(4)
続きです。
バルスが巨大な刃を舞うように振るう。
その軌跡がオレンジ色の線を闇に引いた。
「いくよ・・・・・・!!」
一度は距離を取ったバルスだったが、前傾姿勢になり一気に詰め寄る。
「おうよ・・・・・・!!」
こちらとしても迎え撃つつもりだ。
赤色のレーザーソードを片手に、私も地を蹴った。
暗闇を二色の光が切り裂く。
そしてその光たちは、今正しく交わろうと・・・・・・。
「な、何・・・・・・!?」
私たちの刀身が衝突を果たす前に、私の体が何かに阻まれる。
感触からシールドではないことは明らか。
まるでそう、誰かに肩を押されたような・・・・・・。
「あんたは後ろに居なさい。あんたが食らえば負けなんだから、王将はどっしり構えてればいいのよ」
耳元でそう呟いたさくらの声がその答えだった。
今は姿を隠しているさくらが、私の肩を押し退け前に出る。
後ろによろめいた私の頭上を焼くように、どらこちゃんも炎と一体となって跳んだ。
「ああ・・・・・・ちょっと、私は・・・・・・!?」
すっかり戦うつもりだったが、言われてみれば確かに私は逃げ回っていた方がいいかもしれない。
なんだか卑怯な感じがしなくもないが・・・・・・。
さくらとどらこちゃんの猛攻を受けて、バルスのシールドが激しく光る。
だが、砕けそうな感じもなかった。
「とりあえず・・・・・・」
バルスがこちらに向かってくる様子は無い。
たぶん彼女にとって重要なのは、目の前に迫り来る敵と戦うこと、そして満を辞して破壊に至ることなのだろう。
というわけで一応は様子を気にしながらも、みこちゃんの居る位置を目指した。
みこちゃんは暗闇に身を隠すようにして、静かに銃口をバルスに向けていた。
私がみこちゃんの元へ向かおうとしていることを察したゴローが口を開く。
「キミが行ったら明るくなって見つかり易くなるんじゃないかニャ? その服だし・・・・・・」
確かに暗闇に溶け込むようにしているみこちゃんをこの強化スーツで照らしてしまっては不都合があるかもしれない。
「・・・・・・でも、あの様子だし大丈夫でしょ! うん!」
大将首である私に見向きもしないで炎の擬人化と透明人間のコンビと楽しそうに戦うバルスを指差して言う。
大丈夫だ、ということにして、銃を構えるみこちゃんの横に滑り込んだ。
「あ、きららちゃん・・・・・・。眩しいですね」
「ご、ごめん・・・・・・」
バルスに狙いを定めるみこちゃんは、いわゆるスナイパーライフルらしき銃を構えていた。
その細長いシルエットから、詳しくはないがたぶんそうだと思う。
みこちゃんの表情は真剣そのもので、いつものような柔らかさは消えている。
冷たく、的確に銃を構えていた。
だが・・・・・・。
「撃たないの?」
みこちゃんの狙いは間違いなくバルスを捉えているし、決して射線上から逃がさないようにその激しい動きを静かに追っている。
だが引き金な添えられた指は、引かれることはなかった。
「考えなしに撃っても仕方ないんです。普通に撃ったところで、たぶんあれは破れません」
視線はバルスに向けたまま、みこちゃんはシールドについて言及する。
「どこか・・・・・・きっとどこかを狙えば突破出来るんです。それを探さないと・・・・・・。まぁ別に撃っても何か減るわけじゃないんですけどね、へへ・・・・・・」
そこで初めて頬を人差し指で掻いて照れ臭そうに笑った。
「ふぅん・・・・・・。ちゃんと考えてるんだ・・・・・・」
「きららは考えな過ぎニャ・・・・・・」
みこちゃんの言葉を聞いた上で、炎と不可視を掻い潜るバルスを見るが、私には観察眼が足りな過ぎてよく分からない。
シールドも攻撃を受けた時にしか目に見えないし、突破口なんて果たしてどこにあるのやら。
「ん? いや・・・・・・そうか・・・・・・」
しかし、一つ考えつく。
これは優れた分析の結果導き出される最適解ではない。
単なるゴリ押し。
けれどもやってみる価値は感じた。
「ねぇ、みこちゃん」
「なんですか・・・・・・?」
私の声に答えながらも、その瞳はバルスを捉えて離さない。
「私が攻撃するからさ・・・・・・その攻撃に合わせて同じ場所を攻撃出来ない?」
脆い場所を探さなくても、一点に集中して強力な力を与えればいい。
我ながら名案だと思うのだけれど・・・・・・。
「攻撃って・・・・・・あの子にですか?」
「そうそう。そうすればシールド壊せるかもなって・・・・・・」
「そうですね・・・・・・」
みこちゃんが顎に手をやって考え込む仕草をする。
しばらくして、みこちゃんは静かに頷いた。
「なかなか無茶な気もしますけど・・・・・・分かりました。とりあえずやってみましょう」
「ごめん・・・・・・。タイミングはゴローに伝えさせるから」
「え!? ボクかニャ!?」
いきなり持たされた役割にゴローが驚く。
だがそれを真剣に相手せずに、バルスの方に体を向けた。
「ゴロー、私の考えてること分かるでしょ?」
「分かる、けど・・・・・・覗いてもいいのかニャ?」
「作戦に関係ない心読んだら怒る」
「えぇ・・・・・・」
しかしみこちゃんからはタイミングが分からないだろうし、やってもらうしかない。
私のプライバシーを多少犠牲にしても。
「ていうか結局前線に戻るのかニャ・・・・・・」
ゴローの呆れるような声を背に、再びバルスに接近するべく駆け出した。
続きます。