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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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百鬼夜行(28)

続きです。

 背中を打ちつけた衝撃に頭がガクンと揺れる。

私たちが落下したのは観客席の一番後ろだった。

というか壁が無かったらもっと飛んでた。


 ぐわんぐわんする頭を抱えて、手探りでつかまり立ちする。

私の赤ん坊の頃の記憶が・・・・・・まぁ蘇りはしなかった。

たぶんおばあちゃんに聞けば嬉々として語ってくれるだろう。


「うぅ・・・・・・」


 こめかみを押さえて、回転するような平衡感覚に耐える。


 しかしいつまでもそうはしていられない。

闘技場の中に跳ね返るように、スバルの声が響いた。


『この程度で音を上げてもらっては困るよ! これからが本番さ!』


 その声に、闘技場の中央を見やる。

私たちを吹き飛ばした青い光の帯は、渦を巻くようにして嵐山の槍に集っていった。


 その光景に、私たちは一歩も動くことが出来なくなる。

比較的私の側に居るどらこちゃんも、向かい側の方で嵐山の姿を見つめているさくらとみこちゃんも、ただその異様な景色から目が離せないでいた。


「まさか・・・・・・」


 いつの間にやって来たんだか、すぐ耳元で響いたゴローの声にハッとする。


 そのゴローの声に答えるようなタイミングで、スバルは再び口を開いた。


『回転式徹甲槍、フルパワー・・・・・・ッ!』


 光の帯を巻きつけて、嵐山が天を穿つように掲げた槍が高速回転を始める。


『・・・・・・必殺、重質量ドリル・・・・・・』


 そう、スバルが言い放った。


 その瞬間、光の帯がまるで嵐のように場内を駆け巡る。

その光に煽られるようにして、私の体は容易く浮きあがった。


「おぅわっ!? 何なに、どーゆーこと!?」


 乱れる力の波に翻弄されながら、この無茶苦茶な状況を愚痴る。


「パクられたニャ! キミの、技を!!」


 まるで洗濯機に放り込まれたみたいに空中でぐるぐる回る。

何度も壁や、地面や・・・・・・ときどき他の誰かとぶつかる。

その相手の顔を拝む前に、お互い流されて離れ離れになる。


 完全に行動不能だった。


「くっそ・・・・・・なんだよ、もう・・・・・・」


 文句を言えば、それを咎めるようにまた誰かとぶつかる。

別に文句を言わなくてもぶつかる。


 ぶつかる。

ぶつかる、ぶつかる、ぶつかる・・・・・・。

それを繰り返す。


 「・・・・・・ぁ」だの「き・・・・・・」だの、誰かとすれ違う度にその声が届くが、何言ってんのか全然分かんない。


 私も激流に揉まれながら声を上げるが、他の声と同じく流れにかき消されるだけだ。


 全く体の制御が効かないまま、しかし徐々に嵐山の槍に吸い寄せられていく。

近づく度に回転の激しさが増す。


 このままじゃいずれあの槍に巻き込まれて負けるか、そうならない内にダメージ超過で負けるかのどちらかだ。


「何とかしないと・・・・・・」


 当然そう思うのは私だけではなく、力の奔流に炎の帯が混ざる。

どらこちゃんのものなのだろうが、それは嵐山に到達することなくかき消されている。


 みこちゃんはおそらくこれに対抗する手段は持たないだろう。

さくらも、もしかしたら自分の体は何とか固定出来ているかもしれないが、出来たとしたらそこまでが限界・・・・・・。


 そして私も、おそらくなす術は・・・・・・。


「いや・・・・・・」


 こんな状況だけど、目を閉じて呼吸を整える。


 もしかしたら、一つ出来ることがあるかもしれない。

こちらも重質量ドリルで応えて、本家の実力を思い知らせるのだ。


 しかし、あの攻撃の重さは、私にも制御出来なかった。

秘密基地での記憶が蘇る。

地中深くに落ち続けたあの時の焦りを、思い出す。


 だが、今はその重さこそが必殺なのかも知れなかった。

この力の波に流されない程の、重さが。


「・・・・・・」


 覚悟を決めて、息を吐く。

瞼に一度ぎゅっと力を込めて、そして開く。


 散々衝突しても意地で離すことはなかった剣の柄を握りしめる。

そして静かに口を開いた。


「重質量・・・・・・ドリル・・・・・・!」


 顔を上げた瞬間、私の体は力の流れを無視して、一瞬で地面に叩きつけられる。

上から何かに押し付けられるみたいに、ぴったりと四肢が張り付いてしまった。


「・・・・・・こんのぉ!」


 しかし空中でかき回されるのよりはマシと、床に爪を立てて立ち上がる。

ずっしりと地面に着いて離れない切先を引きずって、槍を掲げる嵐山の元へと歩みを進める。


 そして・・・・・・。


「おぉ・・・・・・りゃぁ・・・・・・!!」


 歯を食いしばる。

目を剥く。

逆風に抗うように、前傾になる。

そして、肩を外しかねない勢いで、剣を思い切り引いた。


 ぐん、と重さが腕の関節を引き伸ばす。

しかし、やっとそれで剣は床離れを果たした。


 再び地に落ちそうになる剣を両手で支えて、頭上を移動させる。

そしてその重さに潰される前に・・・・・・。

右足を踏み出した。


 踏み出した右足が、床に亀裂を走らせる。

そして沈む。


「構うもんか・・・・・・!!」


 それでもその位置を踏みしめて、剣の切先を嵐山に向けた。


 床の亀裂で私に気づいたようで、嵐山が飛び退く。


「な・・・・・・逃げ・・・・・・」


 逃げられた、とそう一瞬思ったが、そんなことはなかった。


 よほど自信があるようで、一歩引いた位置から嵐山が槍をこちらに突き出す。

それと同時に場内に吹き荒れていた暴力は掻き消え、代わりに徹甲槍が纏う青色がずっと濃密なものになった。


 その嵐山の青い光と、私の切先が正面衝突する。

その衝撃波で、闘技場を照らしていたライトが全て割れて消えた。


 それでも嵐山の光が照らし続ける。

中央で私の小さな剣と、嵐山の螺旋を描く青い光がぶつかりあっていた。


 私の体はその力に押されて、床を抉りながら少しずつ下がっていく。

それに「本家が負けてたまるか」という意地だけで、踏ん張って答えた。


 嵐山の方も、自らの重さに耐えるのと私の攻撃に耐えるので手一杯になっている。

全ての装甲はガチャガチャ揺れ、その肩はガタガタともういつ外れてもおかしくないような印象を与える。


 負けないように、更に力を込める。

床に埋まり込んだ足を、更に、より深く沈める。

その私の意思に応えるように、私の刀身も眩い光の螺旋を纏った。


 自分の力が発するその真っ白い光に目を細める。


 そこから見える景色には、嵐山の全力の目が光っていた。

今までのロボットと違いなんだか見た目が生物的な所為で、そういう感情を露わにしているような錯覚をし易いのだと思う。


 そして・・・・・・。

「パリンッ」と何かが割れる音がする。


 もう割れるライトは無いはずと、眩しさを堪えて目を開くと・・・・・・。


「んなっ・・・・・・!?」


 私の光の螺旋が砕けて欠けているのが見えた。

その亀裂は先端から徐々に広がってきている。


「うっそ・・・・・・本家なのに!」


 偽物に負けそうなこの状況に、顔を顰める。

そこに更に何かが砕ける音が重なった。

その音と共に、嵐山の光も欠け始める。


「・・・・・・これは」


 勝てるとも負けるとも、どちらとも分からない。

だが、私たちは勝たねばならない。

・・・・・・というよりは負けたくない!!


 光の砕ける音が、連続して響く。

青色の破片と白色の破片が、その度に散っていく。


 そして・・・・・・。

二色の光の螺旋は同時に砕けた。


 槍の先端と剣の切先がカツンと衝突し、お互いに弾かれる。

しかしその隙を、力の奔流が止んだときから準備していたのかみこちゃんの銃弾が貫いた。


 その弾丸は嵐山の腕の付け根、肩を撃ち抜きまずは徹甲槍を切り離す。

体の左右のバランスが崩壊した嵐山は、盾側に倒れそうになるが、足を広げて耐える。

しかしその体をさくらが無理矢理引き倒した。


 嵐山がその力に抗うように首を上げる。

しかしさくらが無慈悲にその頭部に短刀を突き刺した。


 それと同時に光の残滓が消える。

場内に闇が訪れ、それでも駆動音は鳴り続け、その手足が暴れた。


 それをものともせずに、どらこちゃんがゆっくりと胴体に近づく。

そして光の消えた暗闇に炎を灯した。

燃える拳が、ゆっくりと胴体を貫通してこちら側までドロドロの金属を纏って飛び出る。

それが引き抜かれると、今度こそ嵐山は完全に動きを止めた。


 嵐山の目から光が消える。

場内を照らすのはまだ冷め切らない嵐山の赤熱した傷口だけだった。


 奥の観客席の方から、カラカラと何か瓦礫が転がる音がやって来る。


「ん、何だ・・・・・・?」


 どらこちゃんがそちらを向いて炎で照らすと、そこに現れたのは色々なものの破片に塗れたスバルだった。

よく見ると少し怪我をしている。

どうやら嵐山が重質量ドリルを使用した際に自分も椅子から引きずり下ろされたようだった。


 が、それを今は気にしないようにスバルは口を開く。


「いたたた・・・・・・いやぁ、よくやったね。正直助かったよ。僕もこの有様だ・・・・・・」


 そう言って腕を広げると、袖の皺からまた破片がこぼれた。


「あんた・・・・・・それ、大丈夫なの?」


 最初はあんなこと言っていたさくらだが、流石に実際酷い目に合っているのを目にするとそんな言葉が出てしまうようだった。


「いや、大丈夫。心配には及ばないよ。それより・・・・・・いや、暗いな」


 スバルひ暑い夏だっていうのに、どらこちゃんの炎に暖をとるように手をかざす。

やっぱり暑かった・・・・・・いや、熱かったようですぐに手を引いた。


「さて、僕もそろそろ終わりたいんだがね・・・・・・」


「え、終わりじゃないんですか!?」


「まぁ、ね。まだ最終試験が・・・・・・」


 早くも話の雲行きが怪しくなって来る。


 スバルの声も疲れてしまったのか、あまり乗り気には感じられない。


「僕も・・・・・・もういいかなと思うんだけど、まぁ・・・・・・」


 スバルがチラッと後ろを振り返る。

それに私たちの視線も引っ張られた。


 すると、秘密基地で聞いたのと同じ自動扉が開く音がする。

そんなものあったのかと自分の散漫な注意力を恥じる。

何が来るのかと目を凝らすが、暗闇の所為でよく見えなかった。


 足音が、こつりこつりとやって来る。

そしてやって来た人影は、スバルの肩に手をかけた。


「ねぇ、早く戦わせてよ・・・・・・姉ちゃん」


「・・・・・・まぁ、やっぱり許してくれないよなぁ」


 スバルを呼ぶ明るい声に、呼ばれた本人は酷く疲れた声で答える。

そのめんどくさそうな横顔を、オレンジ色の炎がメラリと照らした。

続きます。

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