百鬼夜行(27)
続きです。
着地と同時に真っ直ぐに駆け出す。
嵐山にとっては二歩の距離でも、私は全力で走らなければそれを埋められない。
走りながら見上げると、既にだいぶ近くにいる嵐山の頭部が見えた。
今回は武装は槍と盾のみと断言されているので、頭に脅威は無い。
かと言ってじゃあどこを狙おうかと考えると、やっぱり頭が一番効きそうだった。
距離が縮まりすぎたのか、嵐山が体はこちらに向けたまま後退する。
振動が足を掬い上げるが、走れないほどではない。
何とかその距離を維持しようと跳ねるように大股で駆けた。
嵐山の突然の後退にさくらが慌てふためく。
申し訳なく思いながらも、足は止めなかった。
危うく踏み潰されそうになったさくらは、その足の下を潜ることを選ぶ。
再び足の裏が地につく前に、スライディングしてこちら側までやって来た。
文句の一つでも言われるかと思ったが、しかし私が嵐山との距離を維持したいというのを察してくれたようで、再び触手を絡めた。
嵐山の動きがぎこちなくなる。
しかし、錆びた体を無理矢理動かすみたいにやはり完全な静止まではいかなかった。
「ありがと」
「あんた覚えときなさいよ」
横を走り抜けるときに礼を言ったら、遅れて怒りの言葉を頂戴した。
それに舌を出して応えて、更に嵐山に迫る。
既に間の距離は少し開いてしまっているが、ここから縮める。
縮められる。
さくらのおかげで速度はこちらが上回っているし、どのみち後退し続けても壁にぶつかる。
嵐山はこれ以上の後退は無意味と悟り、逆に私を近づけないようにと行動を起こす。
「きらら、来るニャ!」
「分かってる・・・・・・!!」
嵐山が私をピンポイントで狙い、槍を突き出す。
しかしその狙い方は逆に私にとっては都合が良かった。
嵐山が懐に入られるのを嫌がっているのは明白。
襲い来る攻撃が薙ぎ払いだったら、私は後退するか、歩みを止めるかしなければならない。
だがピンポイントで狙われれば、回避に後退が伴わない。
途中で軌道修正出来ない距離まで引きつけて、そして斜め前にジェットに点火して跳ぶ。
突き出された槍は私の少し後ろの方の地面を抉り、その破片を飛ばした。
その地面に突き刺さった槍を、さくらが触手で捉える。
その槍の過剰なまでのトゲトゲを利用して、それは上手く絡みついた。
嵐山が槍を引き抜こうと肩を引くが、その側頭部で今度は炎が炸裂する。
「当たりました!!」
最初はどらこちゃんかと思ったが、どうやらその攻撃はみこちゃんのものだったらしい。
流石に痛かったらしく、今まで私狙いだった嵐山がみこちゃんの方を向く。
するとみこちゃんの残した爆煙の中から、まるで竜の顎門のような炎が飛び出した。
「コロナ・ブレイク・・・・・・!!」
発せられた技名と共に、爆煙を貫いてどらこちゃんの炎の拳が嵐山の頭部を正面から打ち抜いた。
その一撃に、嵐山の巨体が容易によろめく。
そこに追い討ちをかけるように、どらこちゃんが拳を叩き込んだ場所の内側から爆炎が噴き出した。
そして・・・・・・。
私も既に嵐山の懐、盾の内側に到達している。
嵐山は拳打に次ぐ爆発で倒れそうなまでにのけぞっているが、さくらに槍を固定されているので倒れることもない。
私はジェットの推進力も伴って真上に跳躍し、更に頭部に追い討ちをかける。
攻撃を終えたどらこちゃんが着地するのと同時に、嵐山の顎に剣の切先を突き出した。
少し刃先が滑るようで、手答えが悪い。
「けど、まだ・・・・・・!」
そこから体を捻って、握りしめた剣を一閃する。
その斬撃は、嵐山の片目を潰す。
いくつかの細かい部品が散るのと同時に、火花が出血するように咲いた。
「・・・・・・よし!」
しかし嵐山もやられてばかりではいてくれない。
その槍を回転させて、さくらの蔓を寸断する。
それと同時に再び身を捻り、その盾で私を突き飛ばそうとした。
迂闊ながらまた同じ手を食いそうになるが、しかしそこにみこちゃんの狙撃が援護に入る。
私が居るためロケットランチャーなどの爆発するものではなかったが、しかし嵐山の盾を逸らすには十分だった。
軌道の逸れた為のギリギリ上を通り、すれ違う。
私の側を飛んでいたゴローは盾に尻尾が引っかかってどっかに吹っ飛んでいった。
それを尻目に距離をとって着地する。
嵐山は怒り心頭といった様子で、残った片目でみこちゃんを睨みつけていた。
みこちゃんはその顔すら容赦なく撃ち抜こうとするが、不意を突いたわけでもないので盾に防がれてしまう。
しかしどらこちゃんが後ろに回り込んでいるのが見えたので、私もそれに合流した。
「お、きらら。大丈夫だったか・・・・・・?」
「みこちゃんのおかげでね」
言葉を交わしつつも、お互いに走る足は緩めない。
しかし嵐山は私たちの追撃を許さない為に、みこちゃんの射線を完全に盾で塞ぎ、体はこちらに向けた。
指名合わせたわけでもないが、どらこちゃんと私で左右に分かれる。
そして炎と斬撃での挟撃を仕掛けた。
嵐山は盾をみこちゃん封じに使っている。
槍で防御するにしても、左右から同時に来る攻撃は防ぎきれない。
結果、さくらの妨害もあり、私たちの攻撃は両方とも嵐山の胴体にクリーンヒットした。
その衝撃をストレートに受けて、嵐山の体がくの字に折れ曲がる。
足が地面から離れる。
そこに更にさくらが逆側から不可視の触手を鞭のように振るい。
嵐山は互い違いに加わる力を発散することもできず、顔面から地面に倒れ伏した。
『・・・・・・思ったよりまずいかもな・・・・・・』
その戦況を見て、スバルが静かに危ぶむ。
しかしその言葉の裏にはまだ何かある気がした。
そして、それはすぐに起こる。
倒れ伏した嵐山から発せられる青い光。
「結局最後はそれか・・・・・・」
標準搭載の操重力機構。
本人が言っていたことだ。
だが無形のものとは明らかに出力が違う。
この戦況を一気に塗り替えようと、私たち全員をその理不尽なまでの力で吹き飛ばした。
続きます。