草陰の虚像(12)
続きです。
「ゴロー......私たち、どうしたらいいかな?」
ベッドの上はすっかりゴローとの相談場所になっていた。
「キミはさくらのことが嫌いなわけだろう......?だから無視でもいい......って割り切れないのが人間ニャ......。キミなんかだと尚更そうだと思うニャ。でも盗み聞きしなければ知ることはなかったニャ。だから、知らないフリも一つの方法ニャ。間違いじゃないし、現に先生の望みはそうだったニャ」
私はさくらだからとかそれ以前に、なんていうか嫌だった。
だから、どうにか出来るならしたい。
「......けど、いい結果になるかは分からない」
むしろ悪い未来の方が想像が容易だった。
そうなって仕舞えば取り返しはつかないだろう。どうあったって戻れはしない。
「いっそさくらがお母さんのこと嫌いなら......」
言いかけて首を振る。
そう言う問題じゃないし、さくらは自分の母親のことが好きなのだ。
「......明日、さくらには話してみる」
自ら話しかけるなんて、そんなこと当然したくはない。気楽に話せるものでもない上に、ましてや相手はさくらだ。
「つまり......働きかけるってわけだね。なら、何としても上手くやらないとニャ」
それにはもはや私たちの手の届かない領域も絡んできてしまう。
私たちが何かしたとして、その後は私たちからすればほとんど運だ。
私のうかない顔を見て、ゴローが言う。
「さくらを信じるしかないニャ」
ゴローの言葉に肩の力が抜ける。
「そっか」
どらこちゃんの時と何もやることは変わらない。
名前と向き合うことだって、本人がその気にならないと出来ない。
私は、相手のことを信じてきっかけを与えるしかないのだ。
さくらが置かれている状況は間違いなく打破されなければならない。
ならば今回だって......。
「私がきっかけに......」
決意が固まった。
さくらを信じる覚悟が今の私にはあった。
気に食わないやつだけど、彼女は向き合う力を十分に持っているはずだ。
「ゴロー......」
「......」
「やるよ」
「わかったニャ。例えうまくいかなくても、悪いのはキミだけじゃないニャ。今からこんなこと言うのはよくないかもしれないけど、その時は一人で抱え込まないで欲しいニャ」
ゴローは優しかった。
ちょっと私には甘過ぎるくらいだと思う。
そんなことを言われてしまったら、私はどんどんそれに甘えてしまうのだろう。
だから、失敗するわけにはいかないのだ。
さくらの為にも、ゴローの為にも、そして......私の為にも。
続きます。