百鬼夜行(15)
続きです。
いつもより少し近くを流れる雲。
その泳ぐ影の中を突き進む私と、そして目の前の嵐山・・・・・・と目玉多数。
手のひらには硬質な金属の感触。
スバルを銃に変えたものは思いの他軽く、少し頼りない。
まるで水鉄砲を持ってるみたいな気分だった。
左手で揺れるバイクのハンドルを押さえながら、風を切るように銃を握った腕を伸ばす。
嵐山にハエみたいたかっている目玉の群れは、皆その虹彩に薄く光を宿していた。
「さて・・・・・・」
相手の攻撃はほぼ回避不能。
なら撃たれる前に撃つ。
単純なことだった。
『オーケイ。ばっちり映っているよ』
銃を構えると、スバルがレンズをカショカショ鳴らしながら視界は良好だと教えてくれた。
「しゃべる武器か・・・・・・」
うるさいけど、悪くない。
素直に私の能力にとってはそういう雰囲気作りは有り難かった。
狙いは大雑把。
『視界内の標的をロック。安全装置解除。最終確認・・・・・・チェック?』
しかしスバルの雰囲気作りのおかげで、その軽い銃身に確かな兵器としての力が宿った。
「チェック!!」
スバルの発言になんとなくの雰囲気で合わせて、引き金を迷わず引く。
軽い抵抗とともに、トリガーが沈む。
その瞬間、銃口から青色の光が解き放たれた。
吐き出された光弾は、存外遅く、しかし意思を持っているかのように目玉を追った。
着弾を待たずにまたもう一発発砲する。
待ってやる義理はない。
こっちは急いでるんだ。
「ばん、ばん・・・・・・ばーん!」
残念・・・・・・でもないが、発砲音はバンとは異なるので私の掛け声とはちぐはぐになる。
そんな掛け声云々は関係無く、光の球は次々と銃口から吐き出されていった。
『また随分雑に処理するね・・・・・・』
「だって何か追尾するんだもん。・・・・・・てか追尾してるのたぶんスバルの所為だよ?」
目玉は光弾の隙間を掻い潜りながら、こちらを撃とうと脳もないのにあれやこれや試行錯誤する。
その思考の過程がそのまま行動に反映されていた。
数の多さが裏目に出て、私が弾を撃つ度にどんどん避けづらくなっていく。
あくまで私を射抜くことを優先するように設定されているようで、この場を離れるという選択肢は無いようだった。
そして遂に、こちらを撃とうと空中で静止した目玉が撃ち落とされた。
ただし、私の攻撃ではない。
「ありゃ・・・・・・みこちゃん?」
スコンッと目で捉えることも叶わない銃弾が目玉を射抜いた。
『おっと・・・・・・送ったのを全部処理したか・・・・・・。なんだ・・・・・・君が一番強いのかと思ってたが、一番弱いんだな』
「あれ? 馬鹿にされてる?」
『してる』
知ってる!!
しかしみこちゃんによる撃墜を皮切りに、目玉の行動が更に乱れる。
その所為で、私の光弾も遂には目玉に追いついた。
またもみこちゃんに助けられて状況が好転する。
だからそのまま・・・・・・。
「私も調子に乗る・・・・・・!!」
自分でも全く仕組みは分からないが、追尾モードから速射モードに切り替える。
引き金を引けば、赤色のエネルギー弾が連射された。
『どういう仕組みだい・・・・・・無茶苦茶じゃないか・・・・・・』
スバルが呆れる。
その気持ちもまぁ分かる。
「無茶苦茶が取り柄なもんで・・・・・・」
赤い光が、目玉を貫く。
一撃では足りず、けれども雨のように切れ目なく続くので何も問題はなかった。
みこちゃんの弾丸に貫かれた目玉が、私に赤い雨を浴びせられた目玉が、浮力を失って墜落する。
道路に衝突するとバウンドして転がり、そして爆発した。
その爆発音が、飛ぶ火の粉が、今は花火より心地よいものに感じた。
一機、また一機と撃ち落とす。
最初に放った追尾弾のおかげで、目玉は落ち着いて照準を定めることもままならなかった。
時折ヤケクソか分からないがレーザーが飛んでくる。
その大部分はあらぬ方向に突き刺さり、牽制にすらならない。
惜しくても15センチ以上離れた位置を焦がすだけで、ダメージを負うことはなかった。
『時間の問題だな・・・・・・』
そう言うスバルの声には、既に次の車両へ思いを馳せているのがありありと滲んでいる。
スバル公認の勝ち確定だった。
やがて無限に量産されているような気さえした目玉も、その全てがスクラップと化す。
余った追尾光弾は、まとめて嵐山の車両に吸い寄せられていった。
青い光は装甲なんてまるで関係ないように、その球と全く同じ大きさの穴を車両に開けて解けるように消えていく。
トドメに、最後にもう一度銃を構えた。
「エネルギー充填・・・・・・」
『120%・・・・・・チェック?』
「チェック・・・・・・!」
スバルの確認を超えて、銃の出力が大幅に上昇する。
その高まりに合わせて、まるで蕾が花開くように発射口が変形した。
その花びらのような金属板の先端を繋いで、青白いエネルギーの流れが円を描く。
その光が太陽よりも眩しくなったとき、反動と共にその光の塊が撃ち出された。
「うっ・・・・・・」
眩しさに思わず目を瞑る。
バイクの制御が危うくなって慌てて目を開く。
その頃には、既に目の前にあった車両は光の粒子になって散っていた。
「よし、次・・・・・・!」
既にエネルギーの再充填を始めて、その粒子流れの中に突っ込んで行った。
続きます。