草陰の虚像(11)
続きです。
三人一緒に保健室に招かれる。
「いい?誰にも言わないって先生と約束して......?」
私以外の二人は何も知らないのだけれど、それを伝えられないまま椅子が三つ用意された。
何を言われたわけでもないが三人ともそれとなく腰掛ける。
先生も正面に座り、足を組む。
適切な言葉が見つからないのか、言い淀んでいる。
「このままでいいってことは......もちろんないんだけどね。色々と難しいのよ」
どらこちゃんたちは何かなんだか全く分からないはずだが、空気に流されたのか真面目な表情で腰掛けている。
「......」
私も何も言えずに、ただ先生の話に耳を傾けることしか出来なかった。
「あの子、転校する前からずっとそうだったって言ってた。お父さんにすら黙ってるみたい。あの子も知られたくはなかったから、明日からもいつも通りに接してほしい......ね?お願い」
そう言う先生の表情は、やはり複雑だった。
「結局なんだったんだ?」
帰り道をどらこちゃんたちと共にする。何だかんだで一緒に帰るという願いは叶った。
「いわゆる女の子特有のデリケートな話題ニャ」
「ゴロー......何言ってんの?」
どらこちゃんの問いに答えるゴローの言葉がまったく意味不明でそのまま疑問が口から溢れる。
「ちょっと話合わせてほしかったニャ......。誤魔化そうとしたのに......」
「それは......ごめん」
「さくらちゃん......何か秘密があるんですか?」
秘密と言えば秘密だが、みこちゃんも自分たちが期待していたようなものではないとある程度察せているようだ。
その声は遠慮がちだった。
「あるにはあるけど......」
果たしてこれは話すべきなのだろうか。まぁゴローが誤魔化そうとするくらいだ。話さない方がいいのだろう。
「まぁ大体分かるよ。言いづらいことなのは......」
どらこちゃんも俯く私を見て、肩をすぼめた。
「でも......。話せそうなら話してほしい。改名戦争は抜きにしても、何かあるならなんとかしてやらなくちゃいけないだろ?たとえ敵でもだ」
「先生も言っていたニャ。最善は今まで通りに徹することニャ。ボクらが立ち入っていいような......」
そんなゴローの言葉を遮って、言ってしまう。私が弱かったから、言ってしまったのだ。どらこちゃんの優しさに、私が甘えてしまったのだ。
「さくらは......」
私の言葉を聞いて、みこちゃんは驚いた表情をする。
どらこちゃんは極力表情を変えないように努めているようだった。
「ごめんゴロー。言っちゃった」
「......。まぁ、キミ一人の中にずっと仕舞っておいてと言うのも酷だニャ。あんまり自分を責めなくていいニャ」
そんな私を責めることはせず、ゴローは優しい言葉で受け入れてくれた。
どらこちゃんは視線を前に向けたまま、呟く。
「やっぱりあたしは何とかしたい」
「でも......どうにもならないかもしれないし、もしかしたらもっと悪くなっちゃうかもしれないんですよね」
不安そうな顔でどらこちゃんを覗き込む。
そのどらこちゃんは、私に真っ直ぐ視線を送った。
最終決定は私に任せるみたいだ。
ここで胸を張ってこうだと言えればかっこいいのだが、私にはそれは出来なかった。
「ちょっと......考えさせて」
せっかくみんなで帰ったっていうのに、胸中は皆複雑で暗かった。
続きます。