百鬼夜行(12)
続きです。
目の前を四角い箱が塞ぐ。
合流した嵐山のその最後尾、それを少し後ろから追いかけていた。
時折火の粉が流れてくるが、どらこちゃんの姿は見えない。
もっと前の車両、あるいは先頭車両と既に接触しているのかも知れなかった。
「絶対私より速かったもんな、アレ・・・・・・」
飛ぶというにはあまりにも不恰好な様で空に登っていくどらこちゃんの姿を思い出す。
どれだけ不自然でも不恰好でも、速いものは速かった。
しかし私も負けていられない。
先行する車両の速度を見る。
幸いこちらより少し遅い様子だった。
このまま一個ずつ車両を破壊していくか、それとも追い越して先頭車両を破壊するか悩む。
しかしそれは悩むまでもないことで、先頭車両をぶっ壊すのが一番手っ取り早かった。
ただそれが可能かどうかは置いておいて。
前を行く車両の側面、そこには小さな砲身が日の光を受けて鈍く輝いている。
ここから見えるのだけでも、左右合わせて四つ。
探せば他にもまだありそうだった。
少し速度を緩める。
道路の左側に寄るように移動すると、砲身もそのまま私を追った。
『まぁ一応は後ろから順番に、というのが正規ルートとして設定しているつもりだよ』
「まためんどくさいことを・・・・・・」
とりあえず位置取りは右か左、どちらかに寄っていた方が良さそうだ。
そうすることによって片側の砲身はどうしても私を追えなくなる。
逆に道路の真ん中を陣取ったら両側から撃たれ放題だろう。
『まぁ最初と言うことで、控えめの武装だよ。そろそろ攻撃を始めようと思うから・・・・・・』
「えっ、ちょっ・・・・・・おお!?」
慌てて道の端に寄る。
瞬間さっきまで走っていた場所を砲弾が穿った。
振り返って見てみると、弾丸が命中した場所は少し焦げて、バスケットボールくらいの大きさの穴が空いていた。
「ちょっとぉ! これ人に撃つやつじゃないって!」
『ほら、そんなこと言ってる暇無いよ』
スバルに文句を言うも、再び弾丸が発射される。
慌ててバイクを傾けると、すぐ上を光の筋が通過して行った。
命中してはいないけど、弾丸が巻き起こした風が耳に触れ肝が冷える。
そこに再び砲弾が飛んだ。
加速して避ける。
斜め後ろでコンクリートが弾けるのを感じた。
「あーもう!!」
避けてばかりじゃ当然破壊することは出来ない。
だから砲弾だって切り裂くくらいの気持ちで挑まないとだ。
リュックからいつも通り線引きを取り出そうと背中に手を伸ばす。
その間も弾丸の回避を忘れない。
加速と蛇行を織り交ぜてギリギリで躱す。
その度に心臓がキュッとなった。
リュックの中に手を突っ込んで・・・・・・手を・・・・・・て・・・・・・。
「あれ・・・・・・?」
私の指先は自分の肩甲骨に触れるだけだった。
結構体柔らかいかも。
いや、そうじゃなくて。
もっと重要なこと。
何度背中を撫で回してもリュックが無い。
「・・・・・・忘れた」
完全に持ってくるのを忘れていた。
考えてみればお風呂上がりで、急いで庭まで出てきたのだから背負っているはずがなかった。
『どうしたんだい・・・・・・?』
スバルがため息混じりに言う。
その反応から、たぶん既に私がどうしたのかには気づいているのだろう。
『まったく、困るよ・・・・・・』
「教えてくれればよかったじゃん! じゃん!!」
『そんな敵に塩を送るようなこと・・・・・・』
「送れよ!」
しかし、実際問題どうしようか。
最悪捨て身タックルというのも無くはないが、その場合残りの車両はどうにも出来ない。
「追い越す・・・・・・か・・・・・・?」
出来るかは分からないが、それしか可能性が無いような思われた。
道幅は広めだが、その中央を電車が走っているとなると話は別だ。
乗用車一台分の隙間も無い。
バイクなら通れないこともないが、問題は武装だ。
頭の中に無数の砲身が私に向くイメージが湧く。
いや、無理。
砲身二つでこの有様じゃ、かなり厳しいと思う。
しかし、といちかばちかで加速する。
覚悟を決めて、嵐山の右側の隙間に滑り込んだ。
瞬間、ターゲットを捕捉した砲身が一斉にガシャンとこちらに向く音を聞く。
それを聞いた瞬間、仕組み的に出来るかは分からないけど、滑り込んだのと同じ速度でバックした。
狭い隙間から出ると、一斉に発射された大砲の黒煙がブワッと流れ出す。
「あっぶな!」
一瞬でも判断が遅ければ発射された砲弾は私を砕いていただろう。
通り過ぎた着弾地点は穴ぼこだらけ・・・・・・というか、穴が繋がってしまって一つの大きな穴になっていた。
その穴の所為で、道路の一部が剥がれ落ちるように落下する。
しかし落下したそれはどこぞの家の屋根に突き刺さる前に空中で分解された。
安全面への配慮は抜かりないようだ。
そんなら命賭けんなよって話だけど。
『さて、どうする? ・・・・・・というかどうにかしてくれよ』
スバルが冗談めかして笑う。
笑えんわ、全然。
「でも分かったよ・・・・・・こうなったらもう無茶苦茶やるしかないね」
既にだいぶやってるけど。
でももっとデタラメに、馬鹿みたいに思い切りやってやる。
砲身の先端がぎらりと輝く。
それと同時に放たれた弾丸をすれ違うように避けながら、バイクのハンドルを捻った。
続きます。