百鬼夜行(4)
続きです。
「ちょっときらら・・・・・・テレビ消してニャ! もう・・・・・・」
どうやら後始末をしていたらしいゴローがボヤきながら部屋にやってくる。
こっちはそれどころじゃないんだって!
窓から飛び込んで来た影はスーパーボールですかってくらいに出鱈目に部屋の中を高速移動している。
しかし壁に衝突するような音も聞こえないし、その速度が制御出来ていないというわけでもなさそうだ。
「な・・・・・・何ニャ!? ハエ・・・・・・?」
動く影を捉えたゴローが遅れて驚く。
いまいち危機感に欠ける例えだが、確かにそのちょこまか動き回る様はハエのようだった。
問題なのは明らかにそのサイズがハエではないことだが・・・・・・。
あんまり動きが速いものだからしっかりとその姿を捉えることは出来ないが、テニスボールより少し大きいくらいだ。
その形状、質感には少し見覚えがある。
「とりあえず・・・・・・」
高速移動するそれの合間を縫って・・・・・・と言っても避けるのは無理そうだからほとんど運だが、勉強机ににじりよる。
途中からこんなことやってるならいっそと思って駆け寄った。
幸い頭にゴツンということもなく机の角に取り付くことが出来た。
そのまま机にべったり張り付くように姿勢を低くしてその上を探る。
その間もずっと頭上を影は飛び交っていた。
こっちを狙って飛び込んで来るようなこともないし、なんだかからかわれているみたいだ。
後片付けが苦手な性格が今回は良い方向に転んで、すぐに指先が出しっぱなしだった線引きを掴まえる。
これでも宿題はちゃんとやり始めたのだ。
もう夏休みの終わりも見えて来たから。
「やっぱこれよ・・・・・・」
その線引きの握り心地に親しみを覚える。
勉強熱心でもないのに、こいつの頼もしさはよく知っていた。
いつものように剣に変えようとするが、せっかくならと思ってハエ叩きにする。
何がせっかくならだ。
線引きに光が集い、無駄に派手な感じで線引きはハエ叩きに化けた。
「はっ!!!!」
ズビシッと、上半身を机から離すのと一緒にハエ叩きを振り上げる。
特に狙ったわけでもないけれど、ハエ叩きはしっかりとその金属の塊を捉えた。
ハエ叩きに衝突したそれは、空中でピタリと止まる。
恐る恐るハエ叩きを離してみると、そこには予想通りの姿があった。
綺麗な球体に埋め込まれた瞳のようなカメラ。
名前は何と言ったか・・・・・・でもその姿は秘密基地で大量破壊したものと全く同じ姿だった。
「これなら簡単に壊せるな・・・・・・」
私の小さな声に応えて、静かにハエ叩きが剣に変わる。
その瞬間、またあの声が響いた。
『あ、待った待った!!』
その声・・・・・・笑い声の滲んだスバルの声にこちらは内心げっそりする。
なんでそんなに楽しげなのか、そのことを考えると目の前の目玉に舌を出してやりたくなるし、実際出した。
『やぁやぁ、歓迎してくれているみたいだね』
「「なわけ」」
ゴローと声が重なる。
ゴローもすっかりうんざりしている様子だった。
『まぁまぁ、そう言わずに。僕はこれから始めるゲームの説明をしに来たんだ』
ゲーム!
うわぁい、やったー!!!!
「やったぁぁぁぁぁぁー!!」
「え、えぇ・・・・・・?」
やけくそで声に出してみる。
ゴローに引かれただけで、気持ちは追いついて来なかった。
どうせスバルが言うゲームが私にとって楽しいわけがない。
あの謎の道路も関係してると思うと尚更だ。
とりあえずそんなゲームはしたくないのでと、問答無用で剣を振り下ろす。
しかし素早い動きで躱された。
「あっ、コイツ・・・・・・」
『ソイツは機動力を大幅に強化してあるんだ。最初からかったのは僕も悪かったからさ、まぁ聞いてくれよ』
「やだ!」
もう一回剣を振る。
当たらない。
「えいっ!」
当たらない。
「なんでっ!」
当たらない。
おまけに滑って、額を机の丸い角にぶつけた。
『・・・・・・もう諦めたら?』
苦笑しながらスバルがそんな風に言う。
ぶつけた額がジンジン痛んで、目の端に涙が滲んだ。
「こいつぅ・・・・・・」
この暑いのにこんなに動き回らせやがってと、見当違いな私怨を込めて睨む。
それすら面白がるスバルの姿が思い起こされて、さらに苛立った。
結果的に言う通りになってしまうが、剣を床に置く。
置いて、その横に座った。
少し上がった息を整えながら顎を上げる。
「とりあえず・・・・・・聞いてやんよ」
背中に浮かんだ汗が、じっとり寝間着に染み込んだ。
続きます。