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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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百鬼夜行(2)

続きです。

 どれだけそれを望もうと、どれだけそれを拒もうと、地球は回り日は巡る。

そして、今の私はそれを拒む側の人間だった。


 瞼を通り抜けて届く日の光の眩しさ、その温度、背中に滲んだ寝汗。

その全てがもう起きろと言っていた。


 確かに朝日は眩しいし、気温も高い。

扇風機だって止まってるし、じっとり纏わりつく汗も不快だ。

今すぐ水浴びでもしたいところだが、それに反する欲求がどうしようもなくある。


 眠い。

いくら暑かろうが、不快だろうが、とにかく眠い。


 理由は明白。

昨日は確か寝付きが悪かったし、おまけに暑さの所為か寝ても寝た気がしない。

睡眠の質は最悪だった。


「はぁ・・・・・・ぁ」


 抱きついた枕に頭突きして、あくびを溢す。

目の端に涙が滲むのを感じた。


 寝間着のズボンを腿までまくって、肌を外気に晒す。

依然暑い。


 眠い、暑い、眠い、けど暑い。


「喉渇いた・・・・・・」


 まだ寝てたいのに、意識はもう半分以上引き上げられてしまっていた。

二度寝するにしても、一旦扇風機を再起動しないと。


 寝転がったまま扇風機の方へ手を伸ばす。

当然届かない。

けど体を起こすのは億劫だった。

暑いし。


 厚ぼったい眠気をぶら下げたままの瞼を震わせながら、扇風機のボタンを探して指を動かす。

その実、私の腕はベッドの上からはみ出てすらいないのだった。


 そこに、もう一つ暑苦しいのがやってくる。


「きらら! 大変ニャ! 起きるニャ!」


 少し離れた場所からやって来たゴローの騒がしい声。

朝からなんだって言うのか。

起き抜けの頭には少々大音量過ぎた。


「何さ・・・・・・朝早く・・・・・・」


「いや八時半ニャ。そんな早くないニャ」


 夏休みなんて九時以降に起床が当たり前じゃないか。


 渇いた唇を舌で舐めて湿らせる。

ゴローの声に引っ張られて、寝癖を植物みたいに揺らしながら体を起こした。

腰の位置から布団がずり落ちる。


 うっすら開いた目に映る景色はまだ焦点が合わない。

それを目を擦って無理矢理寝ぼけ眼を覚醒させた。


「で、何・・・・・・?」


 布団の上に座って、ゴローに聞く。

それにゴローは飛び跳ねて答えた。


「いいから! 外見るニャ、外! とにかく大変なんだニャ!」


 いやよくないだろ、と思いつつも、窓の外を意識する。

百聞は一見に・・・・・・一見に・・・・・・なんだっけ。


 そういうわけで、言われた通り窓の方を向こうとする。

丁度そのタイミングで低い音と巨大な影が横切った。


「ん・・・・・・?」


 外の眩しさに瞬きを繰り返しながら、立ち上がって窓に顔を寄せる。

ゴローも横に顔を並べて来た。


「え、何これ・・・・・・?」


 白んだ光の中から、徐々にそれは明らかになる。

その光景に、纏わりついていた眠気は容易く吹き飛ばされてしまった。


 いつもの田舎町の風景。

その上にはいつも通り夏の高く青いそらに雲がふわふわしてる・・・・・・そんな光景が広がっているはずだった。


 しかし今日の空はいつもと違う。

正確に言えば空ではなくその下。


 その青空の下に、一晩にして道路が張り巡らされていた。


 その道路の影が町に影を落とす。

その影の中を沢山の人が歩いていた。

その人たちの誰もが空を見上げている。


 その上空。

町の上に張り巡らされた道路の更に上から、先程の低い音が降って来る。

それは風を切るヘリコプターの羽の音だった。


「あれって、テレビとかのやつ?」


「たぶんそうニャ」


 ヘリコプターを指差してゴローに聞く。

まさかニュース番組の空撮がこの町を飛ぶなんて思っても見なかった。


 空に浮かぶ道路は本当に浮いていて、地面と接する柱のようなものは少なくとも私の家からじゃ一切見えない。


 その銀色の路面が、日差しをギラリと反射する。

どうもコンクリート製ではなさそうだった。


 こんなものを用意してくるような奴らの心当たりは一つしかない。

勝手にユノたちが目立ちたくないと踏んで真っ昼間にアクションを起こすのは無いだろうと思っていたけど、それを真っ向から否定して来た。


「って、テレビの撮影隊・・・・・・? が来てるなら、テレビで放送されてるってことだよね?」


「そりゃもう。おばあちゃんが言っていたけど朝からずっとらしいニャ」


「ゴロー起こしに来るの遅いよ!!」


「これで四度目ニャ! キミ全然起きないんだもの!」


 とりあえずどうしようと、無駄に腕だけがあたふたする。

とりあえずもう一度状況をよく見ようと窓を全開にして、首を出した。


 窓の縁につかまるようにして、上半身を伸ばす。


「危ないニャ・・・・・・」


 ゴローが私の服の裾を引っ張ると、少し首元が窮屈になった。


 見上げた空にはやっぱり異質な道路が伸びている。

その果ては確認出来ない。

近くにある道は数本だが、もっと複雑そうだ。

単純な網目状とかでも無さそう。


「あ! そうだ」


 そこで他のみんなのことが思い当たる。

みんなもこれに気づいてないなんてことはないはずだ。

少なくともどらこちゃん以外は確実に私より先に起きてるし。


 一番最初に思いつく確認先はさくら。

やっぱり電話を持っているという印象が強いのだろう。


「ちょっとさくらに電話してくる!」


「ボクも行くニャ!」


 眠気はすっかりベッドに置き去りにして、部屋を飛び出し、ゴローと一緒に階段を駆け降りて行った。

続きます。

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