秘密基地侵攻(25)
続きです。
ロボットが腕を突き出して、無理矢理押さえつけてくる力から逃れようとする。
その度に機体同士がぶつかり合い、火花を散らす。
ガラス面に突き立てられた腕も折れこそしないが、力を押さえられずにガクガクと揺れていた。
「よし・・・・・・!」
勝てる。
ロボットの強奪云々なんて今はどうでもいい。
絶望的だったはずの状況から抜け出して、そしてゴローも一緒にまた帰れるのだ。
トドメとばかりに、腕を思い切り振るう。
ロボットの重さを引きずった腕を、肩が外れてしまうくらいの勢いで、歯を食いしばって回転するみたいに振るう。
まず最初に首が先行して、遅れて肩がついて来た。
耳の後ろに機体がひしめき、擦れ、ひしゃげる音が聞こえる。
その音を聞きながら、重たい腕を力いっぱい目の前に叩きつけるみたいに振り抜いた。
その力のままにロボットは目の前を横切る。
次の瞬間には大きな音と一緒にガラスに打ち付けられていた。
まだ動けるようで沢山の火花と電気を散らしながら明らかに正常ではない駆動音を奏でる。
しかし動きはその騒がしい音と比例しない。
ブレながら、ズレながら、角ばった鈍い動きをしている。
それはほとんど死にかけだった。
おまけに、二体の歪んだパーツが上手い具合に噛み合ってしまっているらしく、離れることも出来ない。
もうそれはロボットではなく、ただの金属の塊だった。
「しかし、結構重かったな・・・・・・」
ジンジンする手のひらに、血液が集っているのを感じる。
重力を操るなんて言っても、やっぱり限度はあるようだった。
もちろんそのままでは無いが、確かに操っている物体の重さを感じた。
そんなことを考えていると、視界を光の筋が横切る。
「ん・・・・・・?」
宙空を切り裂いた明らかに異質な光。
一筋の弾けるような青白い光。
それはちょうどロボットが体の節々から散らしている電気と似ていた。
しかしそれが幻影だったかのように、今は視界のどこにも見当たらない。
とにかくロボットにトドメを刺してしまいたい気持ちもあるが、しかし無視し切れるようなものでも無い。
ゴローの様子も気になって見上げると、水槽を満たす青い光を注ぐ照明が眩しく網膜に差し掛かった。
その眩しさに目が眩む。
ほんの一瞬、本当に一秒にも満たない間だけれど視界が光でいっぱいになって何も見えなくなる。
「あっ・・・・・・しまった」
これは迂闊なことをしたと、慌てて視線を外す。
その隙を、あの青い電流が逃すはずがなかった。
頭の後ろでバチバチと電気の弾ける音がする。
慌てて剣と一緒に振り向くが、剣との刃先は空を切った。
「居ない・・・・・・!」
してやられた、と理解するのに時間はかからなかった。
私は振り向かされたのだ。
背後から何か重い力にどつかれる。
「ぐぅっ・・・・・・」
少し吹き飛ばされた後、体に鋭い痛みが走るのを感じた。
切り傷だとか、頭を打っただとか、そういった痛みとは全然違う。
でも何だったかは経験が無くともすぐに分かった。
感電。
やはり、敵は電気の使い手のようだった。
「どこ・・・・・・!?」
追撃を喰らうもんかと顔を上げる。
感電の所為か少し動作までにラグがあった。
顔を上げた先に映るのは、光を背負った眩しい少女。
月の光を溶かし込んだみたいな、白く輝く髪を持った少女。
ユノだった。
「あいつの能力電気だったの・・・・・・!?」
少なからず状況に困惑する。
確か初めて会ったときは水晶のミサイルで攻撃していたはず。
しかし、すぐに違うと気づく。
もう一人、居たじゃないか。
それも見せびらかすように指先に電気を纏わせていた少女が。
パチリと弾ける電気の音と一緒に、聞きたくもないのにテレビでよく聞くからすっかり聞き慣れてしまったアイドルの声が響く。
「サイン、あげようね!」
その距離、その言葉、ファンなら大喜びだろうが、しかし今のところ私はアイドルに興味が無いのだった。
「ミラクルゥッ・・・・・・!」
すっかり有名になりやがって、と関係の無い感情も込めて叫ぶ。
そうして振り向いて、少女の電撃を纏った拳を剣で受け止めた。
続きます。