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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・ウォーゲーム
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秘密基地侵攻(23)

続きです。

「ちょっと! あんたも何が起きてるかどうせ分かってるんでしょ! さっさと止めなさいよ!」


 さくらちゃんは必死に、胸ぐらまで掴みかかるような勢いでスバルに声を浴びせる。


「このままじゃきらら・・・・・・」


 そこでさくらちゃんは一体何を想像したのか、泣き顔に近い形に表情を歪めてその言葉の続きを言えなくなった。


「大丈夫。彼女だって死ぬつもりは無いだろ。じきにやめるさ」


「大丈夫ってあんた・・・・・・!」


 スバルは躊躇うことなく死という言葉を口にする。

それはさくらちゃんが言えなかった言葉と同じようだった。


 きららちゃんは満身創痍になりながらも、ロボットの攻撃を捌き続ける。

その不自然な身のこなしから、無理矢理に体を動かしているのが見てとれた。


 剣がロボットの振るう刃とかち合うと、お互いに押し合って火花が散る。

その光が飛び散る度に、きららちゃんの生命がこぼれていくように見えた。


 実際にきららちゃんの動きは徐々に鈍くなっている。

痛みに引き攣るように、硬く、角ばっている。

ロボットの駆動の方がよっぽど滑らかなようだった。


 こんな時でも、私は何も出来やしない。

何も、持っていないから。

さくらちゃんやどらこちゃんのようにも振る舞えない。


 そもそもきららちゃんが追い詰められているのは私の所為でもあるし、ならば私は何もしない方が良かったのかもしれない・・・・・・。

なんて・・・・・・。


「なんて思わない」


 私が決めたことだった。

何もしないのが、何も出来ないのが嫌なのは私だった。


 だからその選択に、きちんと責任を持たなきゃいけない。

私は貫かなくちゃいけないのだ。


「きららちゃん・・・・・・!」


 水槽に張り付いて、弱っていくきららちゃんを見上げる。

何も出来ない・・・・・・なんて私が勝手に言っているだけだった。

何も出来ないなんて言って、何もしないのを選ぶべきじゃない。


 届くかどうかなんてわからない。

普通に考えれば届かない。

だけれども、送る。


 頑張ってって、負けないでって。

念じるみたいに、心に描く。

自分でも随分勝手なこと言ってるなって思うけど、今は何かそういう不思議な力が働きかけてくれるんじゃないかって、信じることが出来た。


「おい、スバル。そうは言うが、たぶんあいつ・・・・・・既に意識がないぞ。止めろよ」


 どらこちゃんの冷たい声が響く。

本当に、らしくないって思うくらいに冷たい。


「しかしまだ・・・・・・」


 スバルが何か言い淀むが、どらこちゃんはその続きを待つこともせずリモコンを取り上げようと詰め寄った。

その時のスバルの視線が一瞬チラッとこちらに向いた気がした。


 どらこちゃんの言葉を聞いて、注意深くきららちゃんの様子を眺める。

意識が無いなんて信じられないくらいにきららちゃんは激しく動き回っていた。

一体何がきららちゃんにそうまでさせるのか。

答えは簡単だった。


 ゴローちゃんだ。

あの水槽に入ったのも、今こうして意識を失っても尚剣を振るうのも、全部ゴローちゃんを助ける為だった。

それだけ大切で、失いたくないもの。

自分が傷を負ってでも守りたいもの。


「なら、戻って来てくださいよ」


 守るって決めたら守る。

正しいだとか正義だとかは一旦置いておいて、そういう我を貫き通すのがきららちゃんだった。

きららちゃんにはそういう力があった。


 だから。

呼び戻す。


 私だってきららちゃんを、もっと言えばみんなを守りたい。

まだきららちゃんはどこにも行かせない。

死なせない。


 きららちゃんの生死の瀬戸際だっていうのに、私に何か不可解なものが満ちていく。

暖かくて、染み込むようで、心地良い。


 届け。

何を引き替えにしたって今は構わない。

きららちゃんに届いて欲しい。

私の呼ぶ声が。


「きららちゃん・・・・・・!!」


 ガラスに額まで押しつけて、こんな壁超えてしまえと叫ぶ。


 どらこちゃんとさくらちゃんが、スバルからリモコンを取り上げる。

ずっと後ろで揉めていたノワールが、しかししっかりこちらの様子を見ていたようで、リモコンに伸びるスバルの手を遮る。

みんなの手が、何かを掴もうと伸びる。


 そんな中、私は確かにきららちゃんの肩を捉える。

水槽に張り付いているだけだけど、確かにきららちゃんに触れていた。


 手のひらに、きららちゃんの体温を生命を感じる。

もう一度、今度は穏やかにその名前を呼んだ。


「きららちゃん・・・・・・」


 その声に呼び覚まされるように、きららちゃんが薄く目を開ける。

その瞳は何を捉えているのか、光に満ちているように見えた。


 その光景に、リモコンの取り合いをしていたスバルの手が止まる。

瞳を見開いて「アンチェインド・・・・・・」と見惚れるような表情で呟いた。

どうやらこの事態も想定外ではないらしく、むしろこれを待っていた様子すらあった。


 ほら、私にも出来たじゃないか。

ちゃんと出来ることはあったじゃないか、と安堵の息が漏れる。


 すると、まるで貧血みたいな感じでふらっと来て、そしてその場に尻餅をついてしまった。


「何が起きたんだ・・・・・・?」


 スバルにマウントを取るように跨っていたどらこちゃんが、水槽を見上げ、ポカンとする。

さくらちゃんはまだ忌々しそうにスバルの顔を見つめていた。


「これが見せたかったものかい? 確かに大きな力の流れを感じるね。これは・・・・・・そうだね」


 きららちゃんの復活を受けて、どれだけノワールに罵詈雑言をぶつけられようと無言を貫いていた少女が口を開く。

長く、綺麗な黒い髪が肩の上を流れていた。


「ああそうだ、ユノ。君たちの出番だよ」


 その言葉にスバルはどらこちゃんを押しのけて立ち上がる。

その表情には嬉々とした笑みが滲んでいた。

続きます。

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